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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

沢田家の双子「近すぎて遠すぎて36」

前日の夜、翌日の来客リストを確認するのは日課だ。お得意様の場合、好みも把握していて、場合によってはメニューを変更することもある。間違えを防ぐためフルネームで名前を尋ねる決まりになっているため、サワダユウキの名を見つけて心臓が飛び跳ねたのは言うまでもない。

両親から知らせを受けて試験に合格したことも卒業式の日程も入手していたけれど、本人から何もアクションがなかったのでやきもきしていた。

あの頃と変わらず恋しく思っているのは自分だけで、優希は別の人に心を奪われているかもしれないなどと余計なことを考えた。自分の足で立って生活してきた自信は、誰にも渡したくないという独占欲にも繋がった。会わずにこの六年を耐えたのは、物理的な距離と拘束時間があったからこそで、自分の意志とはあまり関係がない。

だから名前を見つけた時、約束を果たしてくれようとしている意思を感じ、一つの区切りを迎えようとしている安堵で肩の力が抜けた。

「今日は妙に張り切ってるな、沢田。」

浮き足立つ心は身体に滲み出るものなのかもしれない。料理長の茶化すような声に苦笑いを返す。

「ずっと会いたかった人が、来るかもしれないんです。」

「なんだ、彼女でも来るのか?」

六年も情を確かめることもなく恋人面はしがたいが、心の中での優希の立ち位置は変わっていない。

「ちょっと違うけど、似たようなものです。俺の片割れ。」

「片割れ?」

「双子の兄です。」

「へぇ。おまえ、双子なのか。来てくれるなんて、仲が良いんだな。ま、今日のパスタも頑張ってくれよ。今年の春の看板メニューだからな。」

「はい。」

料理長の威勢の良い号令が厨房に響き、今朝も《mare~マーレ~》は活気に溢れている。今日という日が自分の人生に彩りを添えてくれることを願い、和希は自分の持ち場に挑んだ。




 

 


料理長に事情を話し、ディナーの担当を終えた後、和希は例のサワダユウキの席へと足を向ける。名前を見てほぼ確信はしていても、その姿を見るまでは俄かに信じ難かった。目に飛び込んできた予想を裏切らない彼の姿に胸がいっぱいになる。

「いらっしゃいませ。」

驚かせるつもりはなかったけれど、声を失って目を見開いてくれた優希に満足する。自分の仕事のテリトリーに優希が初めてやってくる感覚は不思議なものだった。そして愛らしい容姿のままの彼が所作だけは大人になっていることに笑ってしまう。本人は至って真剣だろう。

一方、和希自身は相当変わった自覚がある。久々に会う人たちにはことごとく指摘されるからだ。誰の求める姿でもなく、優希が求める姿になれていることを願うばかりだった。

「優希、久しぶり。」

二人の間で止まっていた時間が静かに回り始める。黙ったまま見開かれた瞳には、ちゃんと自分の姿が映り込んでいた。その瞳が少し潤んで揺れたので、泣きそうになっているんだと気付く。昔ならそのまま泣き出していただろうけれど、茶化すと少し恥ずかしそうな顔を寄越した。離れた時間が二人を逞しくさせたのだと和希は思った。

優希と仕事終わりに会う約束を取り付ける。仕事は厨房での掃除を残すのみだ。

浮き足立った心を幾度も宥め、緩みそうになる顔を引き締めて、和希はその日の仕事を終えた。












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