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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

沢田家の双子「近すぎて遠すぎて32」

優希を抱いて、やっぱり好きなんだと心から思う。けれど実感すればするほど、決意しなければいけないのだと自分に言い聞かせた。

春からお世話になるイタリアンレストラン。そこの料理長のつてで、イタリアに修業に行ってはどうかと打診されていた。言葉も文化も違う地にたった一人で乗り込むのは並大抵の決心では行く意味もなくなる。けれど生半可な気持ちで抱いた夢ではないし、腕一本で食べていきたいと本気で思っている。胸を張ってこれが自分だと言えるものが男として欲しい。

置いていくわけじゃない。捨てるわけじゃない。ちゃんと二人の未来を見たいから、今、離れる時間が必要なんだと折れそうな心を叱咤する。

優希が哀しげな目で見つめ返してくるから、睦言の言葉を裏切って離れようとしていることが悟られているのだと苦々しい気持ちになった。

「優希、聞いて。」

「・・・うん。」

「優希が卒業するまで・・・会うのをやめよう。」

「・・・。」

呼吸を止めたみたいに優希が身動き一つしなくなる。沈黙が怖くなり、必死にその隙間を埋めるように言葉を絞り出していく。

「・・・自分のために時間を使おう。もっと広く世界を見て、そうしたら・・・」

「ウソつき。」

キッと睨んだのは一瞬で、すぐに落ちた視線が俯いたまま起き上がってこない。間もなくフローリングを濡らし始めた雫と小さな嗚咽で、優希が泣いていることがわかった。返す言葉もなく、かといって抱き締めたい衝動に従って良いものかもわからなかった。

「・・・ッ・・・わかってる・・・ちゃんと、わかってる・・・」

「優希・・・」

「このままで、いたら・・・何にも見えなくなって、和希しかいらなくなる。それじゃ、ダメなの、わかってる。でも・・・何で会うのもダメ?」

泣いているわりには感情的でない優希に安堵して、ようやく伝える決心をした。

「俺、イタリアへ修業しに行くよ。」

「・・・え?」

家を出る前日にこんな事を言われて、唐突過ぎて頭に入ってこないのだろう。暫し目を瞬いて呆然としていた。

「料理長に行っておいで、って言われてて。料理人としても勿論だけど・・・人としてちゃんと一人前になりたいんだ。」

優希と会えない場所に行けば、雑念も薄れて仕事に没頭せざるを得ないだろう。言葉や文化の壁に四苦八苦して、きっとそれどころじゃなくなる。

「優希から、逃げたいだけかもしれない。」

「・・・。」

「俺も優希も、まだお互いのことを背負いきれるほど大人じゃないよ。自分のことすら満足にできないのに・・・」

「・・・うん」

「強くなりたい。」

「うん。」

「大学卒業したら会いに来て。それまでには日本に戻ってくるから。」

「・・・ッ・・・和希のバカッ・・・長過ぎるよ・・・」

脇目も振らず優希が泣き始めたので焦る。同じ階の別室で、すでに両親が寝入っているからだ。
今度は迷わず抱擁して、優希を宥めることに専念する。自分との別れを純粋に悲しんで泣いてくれる優希が愛おしい。そして、こんな風に感情を晒け出せる優希を少し羨ましくも思った。

「和希・・・大好き・・・」

この歳で泣いても可愛いと思えることが驚愕だ。惚れた弱みというのは恐ろしい。擦り寄って悲しみを全身で訴えかけてくる優希は幼気な子どものようで、酷な事を強いているような気にさせられる。

実家で過ごす最後の夜。泣かせたことを悔いて、泣いてくれたことを喜ぶ自分を知った。優希と二人、朝まで寄り添い、気の済むまで二人の思い出に浸った。





 








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