小さい灯火を消さないように慎重に覗き見る。繊細な火花が舞っては消えていく光景にしばし二人は無言で見入った。
優希はこの美しくも儚い線香花火がとても好きだ。持っていた線香花火がまた一つ火の玉を落としてその命を終えたので、黙ってまた新たな線香花火に火を灯す。
「優希。この数、凄過ぎる・・・。」
鞄から花火を取り出す優希に初めは微笑んでいた和希だったが、その顔が引き攣るまでさほど時間はかからなかった。服の量より花火の方が多ければ、それは驚くだろう。
花火なんて小学生の低学年以来で、舞い上がって、つい買い過ぎたのだ。行く前に見せたら多いと言われることがわかっていたので、黙って全部持ってきた。
「あしたもやるから、だいじょうぶ。」
嬉しさを隠しもせず意気込んで言うと、和希は苦笑しながらも頷いてくれた。
我儘を聞いてくれるから好きなのではない。好きだから我儘を言って困らせ、それでも好きだと言わせたい。捻くれた自分に時々自分でも辟易するけれど、この歪んだ性格は如何ともし難かった。愛を乞い試すなんて、性格悪いよな、と思ってしまう。
「線香花火ってさ、ちょっと寂しくなるな。」
「うん・・・そう、かも・・・」
黙り込んだ優希の顔を和希が覗き込んできたので、胸に浮かんだ僅かな不安を振り払って微笑み返す。
「かずきがいるから、だいじょうぶ。さみしくないよ。」
本当は不安だった。この関係をいつまで続けていけるのかがわからないから。想いが通じて幸せに浸っていたのも束の間、今度は別れを心配し続ける日々が始まった。
好きで想いを告げられなかったことが辛かった。けれど想いが通じたら通じたで、やっぱり苦しかった。伸ばした手を握り返してくれるのも、求めて抱き締めてくれるのも、もしかしたら今だけかもしれない。
小さな火の玉に願掛けをする。和希と同時に灯した線香花火を、自分の方が長く落とさずにいられたら、この関係は成就する・・・。
手が揺れないように息を止め、ジッとその瞬間を待つ。風が民宿の庭を通り過ぎて、ほんの僅かな差で和希の火の玉が先に命を終える。胸に込み上げてきたものをぐっと堪えて、涙が溢れないように自分で自分の手をきつく握り締めた。
「好きだよ、優希。」
不安を見透かすように和希が耳元に甘い言葉を囁く。それだけで嬉しくて心が震えた。
「ずっと一緒にいたい。」
誓いではなく、願い。今この瞬間に抱いた甘く淡い願望。
和希が自分から離れていくことを望んだ時、自分は和希を手放せるだろうか。人の心は移り変わるものだと聞くし、和希を縛る権利など自分にはない。
「かずき、だいすき。」
約束できないことはしない。後で泣くことになるのは目に見えているから。だから、口にできる言葉に自分の想いの丈を注ぎ込む。和希は優希の心の内を知ってか知らずか、慈しむように髪を撫でてくれた。
「今日はこれくらいにして寝ようか。」
「うん。」
バケツに張った水には大量の線香花火の残骸が浮かぶ。いっそ全て燃え尽きてしまうなら、寂しさも通り越して清々しく思えるかもしれないのに。
バケツの処理を和希が引き受けてくれたので、広げた未使用の花火をまとめる。少し強い風が肌を撫でていくと、火薬臭が流されて代わりに潮の香りが身体に纏わり付く。花火は霞のようなこの恋に似ているなと一人真っ暗な空を仰いで思った。
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