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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

沢田家の双子「近すぎて遠すぎて28」

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沢田家の双子「近すぎて遠すぎて28」

長いこと電車に揺られ窓の外の景色に目を奪われていると、自分の存在がひどく非現実的に思える。

二人で両親に嘘をついた。嘘をつくのは初めてではないけれど、子どもの悪巧みとはワケが違う。こんなにハラハラして家を出たのは間違えなく生まれて初めてだ。

自分たちのことを誰も知らない遥か遠くへ来て、二人だけの世界に身を委ねる。目の前の広大な海の景色とは裏腹に、心の中は優希一色になって極限まで心の視界は閉じた。

両親には同級生たちみんなで出掛けると嘘をついて出てきた。夏休み前から計画を練って、あえて遊泳禁止の寂れた海辺の街を選んだ。言い出したのは優希で、和希が海辺の民宿に電話をした。今日から二泊三日、二人きり。高揚感で胸がいっぱいなのを、どうにも抑えきれない。

「かずき、まだつかない?」

「もうすぐだよ。時刻表通りなら、あと五分もかからない。」

まだ着かないかと幼子のように何度も尋ねてくる優希が可笑しくて、つい笑みが溢れてしまう。
優希が話せるようになって、早半年。随分とお喋りが過ぎて、両親は呆れているほどだ。家の中が途端に賑やかになった。そして性格も幾分か明るくなった気がする。

「かずき、まだ?」

楽しみで仕方がないと、その興奮度合いを全身で表現する姿に、和希はついに吹き出して笑う。そして間もなく小さな駅のプラットホームが海の景色を遮って、到着を告げた。

「かずき、はやく!」

飛び出すように車内を出て和希に手招きをする。ホームに降り立った途端、潮の香りが鼻を掠めていく。遠くへ来たのだな、と改めて実感する。

「先に荷物、置きに行こうか。」

「うん!」

知っている者の目がないという事実は思いの外、心を軽くしてくれる。何の憂いもなく優希に微笑み返して、和希も軽快な足取りで海辺の街への一歩を踏み出した。

予約した民宿は駅と海を繋ぐ一本道のちょうど真ん中辺りに位置していた。老婆とその娘夫婦が営む民宿は、こじんまりとした佇まいで、家族の温もり溢れる昔ながらの民宿だった。二人の家は今どきの核家族。この民宿を包む雰囲気は和希たちにとって新鮮なものだった。

「お世話になります。」

二人で頭を下げると、老婆が快く迎え入れてくれて、その後娘さんが部屋まで案内してくれた。隣部屋は空いているらしい。お盆前までは賑やかだったが、夏休みも終わりに近付き、街は閑散としているという。和希と優希の狙い通りといえば狙い通り。しかし静かなのも少し寂しいなと贅沢なことを思ってしまう。

「かずき、ゆっくりできるね。よる、はなびしようね。」

小学生の遠足かと思うほど、カバンにお菓子やら花火やらをたくさん詰めてきた優希。本来呆れるところだろうけど、それだけ自分と旅行に来ることを楽しみにしていてくれたのかと思うと、自然に頬も緩む。

「優希」

呼んで振り向いた顔に寄って、彼の隙を突いてキスをする。サッと染めた頬が嬉しそうにはにかむのが愛らしかった。

「きょうは、ずっといっしょ。」

「明日も。」

「うん。」

もう一度キスをして身体を離すと、名残惜しそうに視線が追ってきた。けれど昼間から盛るのも少々気が引ける。

「せっかく来たんだし、海まで行こうよ。」

甘い空気を少し強引に裂き、優希を立たせて部屋を出る。優希も気恥ずかしそうにしながら和希の手を取った。





 

 

夕飯は民宿の若旦那が気を利かせてバーベキューのセットを引っ張り出し、海で採れた新鮮な魚介類を豪快に目の前で焼いてくれた。

「かずき、ずるい。それ、さっきもたべてた・・・」

今まさに海老を口に運ぼうとしていたら、恨みがましい目で優希が海老を見つめてくる。優希の分を奪ったつもりはなかったのだけれど、自分のペースで平らげていたら、いつの間にか彼の領域にも手を出していたらしい。

「悪かった。わざとじゃないからな?」

ここまで来て優希に臍を曲げられたら堪らないので、慌てて海老を彼の前に差し出す。ついでに優希の好物である貝も差し出しご機嫌取りに走る。

「くれるの?」

「あげるよ。」

「・・・ありがと。」

嬉しそうに目を輝かせ、皿と和希の顔を交互に見る。和希は機嫌を損ねないでくれたことに心底ホッとし、胸を撫で下ろした。

「お二人さん。そういえば花火やるって言ってたよな?」

「はい。どこかやれる場所、ありますか?」

「音がしないやつなら、ここでやってもらって構わないよ。海辺の方は風が強くて危ねぇから。」

「いいんですか?」

優希が大量に線香花火を持ち込んでいたことを思い出し、若旦那に礼を言ってお言葉に甘えさせてもらうことにする。強い海風に吹かれては、線香花火などひとたまりもないだろう。

「優希、良かったな。」

貝を口いっぱいに頬張り、優希が嬉しそうに頷き返してくる。ここへ来てから解放感溢れる笑みを量産してくれる彼に、ここへ来て本当に良かったと心から思った。












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