ずっと腕に抱いて眠りたかったけれど、親のいる手前、同じ部屋で抱き合って寝るわけにもいかない。こんな事を兄弟でしていると知ったら卒倒ものだろう。
風呂で身体を清め、遅めの夕飯を作って食べ、両親が帰宅したのを合図にそれぞれの自室で眠った。
一晩眠り、そして目覚めても、まだ抱いた感覚を思い出せるほど自分は溺れている。その事実に驚愕し、暫し呆然とする。一度触れてしまったら、もう逃げられないのだと腹を括った。
優希が好きだと自覚してから、男同士でどう身体を合わせるものなのか調べていたから少しは心構えができていると思っていた。優しく抱いてあげたかったのに、膨れ上がった欲望に逆らえず、夢中で快感を追ってしまった。結果、今朝の優希の動作がおかしいことに内心ヒヤヒヤしている。腰が痛いのか、妙に慎重な動き方をするし歩くのも辛そうだ。
「優希、ごめん・・・。」
朝ご飯を前にしながら、本当に申し訳なくて小声で謝れば、頬を微かに赤く染めて優希が首を振る。そんな仕草一つ取っても愛らしくて、口元が緩みそうになってしまうのだから重症だ。
「今日・・・体育、一緒だったよな?」
すぐに頷かれて頭を抱えたくなる。
「やすむ。」
一方の優希は大して気にも留めていない様子でふわりと笑顔を溢した。緊張感があまり感じられない顔で微笑まれると、もういいかという気になってくるから不思議だ。
「あら、優希。体育休むなんて、また具合でも悪いの?」
母に会話を聞き取られていて、心臓が嫌な跳ね方をする。急に現実に引き戻されて、咄嗟にどう言い繕うか和希が内心焦っていたら、優希がのんびりした声音で母との話を繋ぐ。
「マラソンきらいだから、やすむ。」
「ダメよ。ちゃんと運動してらっしゃい。サボらないの。」
「やすむ。」
昔はこんな風にさらりと嘘をついたりできなかったはずなのに、随分器用になったなと安堵する。しかしテーブルの下で微かに震える手が和希の服の裾を掴んだ瞬間、精一杯の虚勢なのだと気付く。和希は母の目を盗むように、そっと優希の手に自分の手を重ねた。
知られてはいけない茨の道に足を踏み込んだことを改めて思う。けれど後戻りはできないし、するつもりもない。なら突き進むしか選択肢はないのだ。
「二人とも、そんなのんびり食べてていいの?もう出る時間じゃない?」
急かされて、慌てて目の前のご飯を胃に収めていく。生きた心地がしないという感覚を初めてこの日味わった。
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朝霧とおる
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