疑っているわけではないけど、好きな人が自分以外の誰かと距離が近いというのは、あまり気分が良いものではない。優希と大内には間に入っていくのが躊躇われる雰囲気を時折感じる。単なる嫉妬だ。だから優希に文句を言うでもなく、大内に対して表向き牽制するわけでもなく、ただ悶々とした気持ちだけが積み重なった。けれどそういう空気をお互いすぐに感じ取ってしまうのは、何とも気まずい。
「かずき。おこってる?」
「怒ってないよ。」
「おこってる・・・。」
努めて冷静に返したけれど、優希は訝しんでこちらを見た。折角二人でいるのに、優希が大内から借りてきた海の写真集を見始めたので、それが少し気に入らなかっただけ。見入って感嘆の声を上げる優希に適当な相槌を打っていたから、不機嫌さがだだ漏れだったのだろう。
「どうして、おこってるの?」
こういう時は情けないから食い下がってきて欲しくない。本に罪はない。本にまで嫉妬してるなんて、心が狭過ぎるだろう。
「怒ってないよ。」
「おこってる・・・。」
何度も押し問答をして、結局折れたのは和希の方だった。
「怒ってる、っていうか・・・。大内先輩と仲良過ぎだな、って。」
「・・・やきもち?」
「そうだよ。」
大きな瞳がこちらをじっと見上げて、ふわりと照れ笑いに変わる。小さな事で嫉妬する自分も、その嫉妬を喜ぶ優希も大概だなと思う。何だか居た堪れなくなって、強引に優希の腕を引いて唇を奪った。
「ッ・・・」
きょとんとしていた目が驚きの表情に変わる。好きだと気持ちは確かめ合ったけれど、行為ではっきりそれを示すのは初めてだった。
兄弟として十六年間生活をしてきた。いきなり昨日今日で恋人になるのは気恥ずかしさが勝って、どうにも手が出せなかった。はっきり欲情する自分を認めるのも勇気が必要だったのだ。
触れたら確実に変わるだろう二人の関係性が怖くもあった。触れたら最後、もう元には戻れない。兄弟が愛を分かち合うなんて誰が考えても禁忌だ。絶対公になどできない。その所為で優希を悲しませることも苦しませることもあるかもしれない。そう考え始めると、手があと一歩のところで止まる。否、今までは止まっていた。
触れ合った唇が焼けるように熱い。一度知った唇の感触を、しっかり脳裏に焼き付けるように繰り返し優希と口付けを交わす。今までしてきたキスの中で一番興奮した。好きな人とするキスはこんなにも自分の劣情を煽る。
人として超えてはいけない一線だと理性ではわかっている。男同士、兄弟、自分たちの何を取っても世間に受け入れてもらえる要素はない。
けれど欲しいものは欲しい。優希とキスをして歓喜する身体。難しいことをループし続ける頭より、身体は素直だな、とどこか意識の遠くで思う。
「優希・・・抱きたい。」
理性の鳴らす警告を強制的にシャットアウトして突き進む。言葉にすれば、なんてシンプルなんだろう。
優希が和希の服の裾を引っ張ったのが合図になった。ベッドで優希を組み敷いた瞬間、満たされていく心に、もう嘘はつけなかった。
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朝霧とおる
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