「凛、こちらへおいで。」
「はい。」
鉢に浮かべた花が、湯の中でくるくる回って踊る。熱せられて香りを一層濃くした花湯を差し出すと、紫苑が微笑んで受け取る。
「凛。今日は東方の鉱山の話をしようか。」
「鉱山……瑠璃の石も取れるのでしょうか。」
「そうだね。たくさん取れる。」
凛が胸の内を明かし、紫苑が受け止めた夜。それ以降、紫苑は時折、凛の望むものを語ってくれるようになった。
過保護であることには変わりないが、すべてを秘密裏に片付けていた頃と違うのは、苦しみや悲しみを分け合えること。凛が水の記憶に見た西方で起きた戦のことも、紫苑は少しずつ打ち明けてくれた。
水の使者が放った叫び声は、今も凛の身体に深く刻まれている。癒えるように祈りを捧げた夜、西方は大雨に見舞われたらしい。水の精霊の嘆きにも思え、勢いを増した水は王都に繋がる川にも及び、やがて死の匂いを流し去った。
「紫苑様。受け取っていただきたい物が。」
紫苑の話を遮ってでも、渡したい物があった。彼の手を取り、大きな掌に薬箱を置く。
「これは、そなたが買ったものではないか。」
「紫苑様のために選んだ物です。」
「そうなのか?」
驚いて目を見開き、紫苑の瞳が凛の顔と薬箱を交互に見つめる。
「紫苑様が寂しくないように、私の代わりです。」
「そなたの代わりか。」
困ったように笑う紫苑の顔には、代わりなどあるものかと書かれている。しかし紫苑の執着具合に喜びを感じてしまう凛も大概だった。
「何が入っているのだ?」
「開けて、ご覧ください。」
長い指が突起を摘まんで、そっと薬箱の蓋を開ける。
「青いガラス……。そうか。戒めか?」
察しのいい紫苑は青いガラス玉を手に取って苦い顔を浮かべる。
ヒビの入ってしまった青いガラス瓶の始末を考え、砕いて小さなガラス玉にすることを思い付いた。一つひとつ丁寧にこの手で磨き、ついには薬箱をいっぱいにするほどの量になったのだ。
「紫苑様が、私との約束を守ってくださるようにと、念を込めました。」
「そなたも意地が悪いな。忘れたりせぬ。」
この広い世界が桃源郷になるその日まで、王と星の宮は務めを全うしなければならない。
紫苑と凛に新たな風を吹き込んで、二人の王都散策はようやく終わりを告げた。
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いつもご覧いただきまして、ありがとうございます!!
これにて「瑠璃色の王と星の子」第二弾は終了です。
途中、予約設定を間違えてしまい、更新が反映されず、ご迷惑をお掛け致しました。
申し訳ありません!(><)
本日の18時頃、次回作の予告をUPしたいと思います。
またお付き合いいただけるようでしたら、よろしくお願い致します!!
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