色鮮やかな宝玉が埋め込んであるものや、木彫りが施され緻密な細工があるものまで、大小の薬箱を見つめて、凛が目を輝かせる。
星の宮は王が誤って癒しの力を使おうと試みない限り、病むことはない。緩やかに流れる時の中で、老いだけが彼を少しずつ永遠の眠りへと誘う。
凛が薬箱を求める理由が思い至らず内心首を傾げた紫苑だったが、彼のことだから何か大切な物を仕舞うために欲しいのかもしれないと思い直す。
「そなたに背を向けるから、百数える間にこれを使って買いなさい。」
「はい。」
銀の硬貨を受け取った凛は、嬉しそうな顔で握り締める。
金の硬貨にしなかったのは、商人たちの気を引かないためだ。求める品は一つと約束したから、店の品物を見渡す限り、凛に握らせた銀で事足りる。
「一、二、三……」
「百なんて、あっという間ですね。」
いくらでも待ってやりたいが、人目を惹く気配は隠せない。凛を急かすために数え始めた紫苑だったが、笑いながら答えた凛の声に焦りの色は見えない。
「紫苑様が数えますと、子守り歌のようですね。深く包まれているようで安心します。」
残念ながら紫苑の目論見は失敗らしく、涼やかな耳飾りの響く音が背後から聴こえてくる。凛は首を傾げ、あれでもない、これでもないと薬箱を眺めているようだった。
「……四十九、五十。凛、もう半分まで数えてしまったよ。」
「どれも綺麗で……迷います。」
「そなたの望むままに選べばいい。」
「それが難しいのです。」
耳飾りが打ち鳴らす音が盛んになる。初めての買い物に目移りしているようで、悩ましげな声で訴えてくる。
「紫苑様、青はお好きですか?」
「そなたの身に勝るものはないが、青は好きだよ。」
「では……これにいたします。」
自分で買い求める物だというのに、紫苑の好きな色を聞いてくるのは非常に彼らしい。
老齢の店主に品物を示して銀の硬貨を渡したようだったが、凛の戸惑った呼び声で、紫苑はすぐさま振り向く。店主が凛に銅の硬貨を二枚渡そうとしているところだった。
「紫苑様……。硬貨が増えました……。」
心配そうに見上げてくる凛の肩に手を置き、店主が差し出してきた硬貨をそっと握らせる。
「それは釣りの硬貨だ。そなたが受け取っていいものだよ。」
買い物をしたことがない凛には、全ての事が新鮮で知り得ぬことばかりだ。不思議そうに紫苑を見上げながら腕の中で安堵の息をつき、店主から紙でくるんだ品物を受け取る。
一体どんな物を選んだのやら。凛の顔は満面の笑みで、今にもこの腕から飛び立っていきそうな昂揚感に包まれていた。
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朝霧とおる