夢心地ではある。しかし溢れ出るような快感が足りない。凛に物足りなさを感じるなんて、自分はおかしくなってしまったのか。
紫苑は上に跨り揺らめく凛を呆然と眺めた。そしてふと気付く。
この世界には音がない。
自分の声も凛には届かないし、凛の甘い喘ぎ声も聞こえてこない。やはりこの世界はおかしいのだと紫苑は悟った。
白銀の世界が地獄のように思えてきた刹那、憶えのある香りが鼻をくすぐる。
何の香りかと記憶の糸を辿ると、凛がいつも紫苑のために淹れてくれる花湯だと思い出す。すると全身が熱く燃え、今まで不確かだった身体の感覚がよみがえってくる。
「凛!」
叫んだ途端、視界がぐにゃりと歪んだ。
笑わない人形のような凛が紫苑の視界から消え、自分を呼ぶ確かな声を耳にする。
『・・・お、ん・・・さ・・・』
「凛、私はここだ!」
もう一度はっきり叫ぶと、白銀の世界は完全に消えうせ、グイッと闇の中を何かに釣り上げられていく。
『紫苑様!』
そうだ、凛の声はこんな風に鳥が歌うような澄んだ声だったと思い出した瞬間、ようやく強張っていた手を伸ばして何かを掴む。
妙に実体のあるそれは、紫苑に甘い疼きを思い出させるものだった。
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朝霧とおる