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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

マイ・パートナー26

柚乃宮が自宅マンションに引き上げると言い出したのは、翌週の木曜日の夜だった。何故かと聞けば、もう大丈夫だと思うからと言われた。

「新垣さんのところに母さんから返事が来たんです。今後故意に近付かないことを条件に会う約束をしていました。守るから会いたいって返ってきて。」

「でも約束を守る保証はないだろ?」

「会うのは明後日の土曜日で目前だから、今すぐ押し掛けてくるようなことはないと思います。それに多田さんにお世話になり続けるのも、やっぱり違うと思うから。多田さんのこと、好きだから……無闇に寄り掛かるのだけは嫌なんです。」

言いたいことの察しはついた。恋人だからといって、大丈夫な時ですら世話になりっぱなしでは逆に居心地が悪いだろう。意地になってはおらず、こちらの様子を窺うように言ってきたので、柚乃宮は至って冷静だ。無理に引き止めたって二人にとって軋轢にしかならない。

「……約束して。ちゃんと気を付けるって。」

すんなりと多田が承諾したので、柚乃宮はホッとしたような顔をした。公私共々、強引だと思われている節があるのは知っているし自覚もある。けれど融通が利かないと思われるのは少々問題だ。せめて柚乃宮がストレスなく言いたいことを言えるようにしてやらなければと、多田は少し反省した。

「柚乃宮、日曜日は会える?」

「えっと……」

「いや、何か一人でしたいことがあるなら無理にとは言わないけど……」

「……土曜日は、ダメですか?」

「だって土曜日は会いに行くんじゃないのか?」

「会った後、どこかで……あ、別に多田さんの家でもいいんですけど……。」

恥ずかしそうに俯いたので、ひと仕事終えたら甘えたいと言外に言われているんだと気付く。萎みかけていた気持ちが一気に吹っ飛んで、嬉しくなって抱き締めた。

柚乃宮が驚いて、大きな瞳がさらに見開かれる。羞恥心を隠すように不貞腐れたような顔をしたのが可愛かった。





約束の時刻は午後三時。十五分程過ぎたが、戻ってくる気配がない。何か揉めているのだろうか。多田からしてみれば、あの精神的に不安定な母親相手に何も起こらない方が不思議である。
昨夜デザイン課を覗いて柚乃宮を訪ねたが、いつもと変わりなく仕事をしていた。翌日、四年以上まともに会っていなかった母親と会うことになっている。変に緊張でもしていたら気の毒だなと思っていたが、こちらが思うより落ち着いていた。

多田と柚乃宮の仲が良いことは結構知られてしまっているから、柚乃宮について回り過ぎて変な噂が立っても彼を困らせる。それに多田自身も必要のないところでカミングアウトする気はなかった。だから昨夜はスケジュールの確認だけして泣く泣く別れた。

また一人で眠って悪夢にうなされたりしていないか、自傷などしていないか心配でたまらなかった。多田の部屋で一緒に寝食を共にしていた時は自傷行為をするようなことはなかったが、家に戻ってしまったら確かめる術もない。悶々としていた結果、自分が寝不足になった。

ロビーの椅子にもたれて新聞をまた一頁めくる。そうでもしていなかったら、うっかり寝てしまいそうだ。

「多田さん。」

男性用化粧品が高い成長率を誇っているという記事を見て、顧客で切り込めるところはないかと思案し始めた時だった。

柚乃宮が新聞の上にひょっこりと顔を出して笑った。

「終わったの?」

「お待たせしちゃって、ごめんなさい。」

「平気だよ。行こうか。」

「はい。ちょっと急いでもらっても良いですか?」

聞けば、新垣弁護士が柚乃宮の母をしばらく留め置いているらしい。柚乃宮は車の助手席に収まると、あからさまにホッとして盛大に溜息を吐いた。

「疲れたんじゃない?」

「……ちょっと。」

「ちゃんと話せたの?」

「思ったよりはまともに話せました。でも時々思い出したように何度も、家に帰ってきて、って言うもんだから困りました。」

ちゃんと断りましたけど、と苦笑した顔で言ったのを見て、きっと完全に心休まる日が来るのはまだ先になるだろうなと思った。

「もし今後、俺のマンションとか職場に無断で来るようなことがあれば、通報するって脅しました。本気でする気はないし、しても親子だから相手にしてもらえないでしょうけど。一応牽制だけはしておかないと、と思って。あと……。」

「病院のこと?」

「はい。通院費が捻出できないならそれは面倒見るから、ちゃんと病院に掛かってくれ、って伝えました。書面でも約束させることができたので。」

良かったねと言えば、ようやくスッキリとした表情をした。終わってはいないけれど、一歩前進したと言えるだろう。

「あの、多田さん……たくさん、ありがとうございました。また迷惑掛けちゃうかもしれないけど。」

「俺としては、捨てられるよりも、一緒にいて迷惑掛けられる方がマシ。」

「何ですか、捨てるって。」

柚乃宮が可笑しそうに笑い出したので、多田もつられて笑った。

自分から手放すことなんて絶対あり得ない。だからそういう言い方をした。柚乃宮は笑い話で片付けたけれど、わりと本気で言った。二人で笑えるうちは何も心配することはないんだろう。そう思えることが嬉しかった。





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