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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

マイ・パートナー19

小雨が降り、少し肌寒い週末。営業先を回った足で昼を済ませてきた。いつもと違うのは休憩中に馴染みの客とあっていたことだ。ただし今回は自分が依頼する側として会ってきていた。

 柚乃宮から承諾の意を貰い受け、多田が新垣弁護士に事情を聞いてもらったのだ。早速今週の土曜日に柚乃宮本人と会ってもらうことになり、そこで再度詳しく話を聞いてもらってから、正式に依頼するかどうか本人に決めてもらうことになった。

 多田はその辺の事情は知らなかったが、親が子どもに危害を加えていたような場合、子どもが逃げても連れ戻そうとするケースは少なくないらしい。柚乃宮のところも例に漏れず、ということなのだろう。

 業務外の事なので、柚乃宮にはメールで連絡を入れた。絵文字も句読点すらもない、ありがとうございますの一言だけが返ってきて、柚乃宮らしいなと思う。あれで愛想が良かったらライバルが増える気がするから、あのままの柚乃宮でいい。彼の魅力を知っているのは自分だけで十分だ。

 自分の気持ちは伝えた。区切りをつけてくれる気でいるようだから、そのペースを邪魔したくはない。しかし本人の意思を尊重しているようで、実際はそうではない。

 柚乃宮にはこれから先も色んな出会いがあって、自分とは違い女性を好きになって結婚をして子どもを持って、とそういう未来があるかもしれない。多田の方からその可能性を毟り取ることは憚られる。あくまで本人に、自分との未来を選ばせたいという勝手で明確な意図があった。

 定時まであと三十分。これからデザイン課の松林と柚乃宮の三人でブライダル案件の打ち合わせがあった。五階のミーティングルームは制作部の社員たちが少しずつ持ち寄ったデザインやネットワーク、プログラミングに関する書籍が並び、大きな書店でないとなかなか手に入らないような代物も多く、見ていて楽しい。普段、多田も手に取らないようなものばかりだ。

 柚乃宮も意外と本を読むらしい。意外と言っては失礼かもしれないが、あまり本を読むような印象がなかったからだ。雑誌が大部分を占めるらしいが、多田の部屋の本を眺めながら、賞を獲ったりテレビで話題になったような小説や評論の感想を述べては、多田にも意見を求めた。

 若いのに、わりと俯瞰して仕事の流れを組み立てられるのは、そういうことも関係あるのかもしれない。主観を極力排除した客観性と理論的な仕事の仕方は、注意されてすぐに構築できるものではない。柚乃宮は忙しい時も慌てることなく淡々と仕事をこなす。

 しかし柚乃宮の場合、残念ながら私生活ではその能力が発揮されているとは言い難いだろう。仕事と私生活の温度差が激しい。

「笹塚さん、俺に電話きたら内線の五〇五に?いでくれる?」

「ミーティングルームかぁ。あそこ居心地良いですよねぇ。あれで全面ガラス張りとかだったら、なお良いんですけど。」

「景色は良いだろうけど、それだと落ち着かなくて会議にならないよ。」

「そんな事ないです。はかどりますよぉ。」

 弁当がだろ、と聞けばカラカラと甲高い笑い声が返ってきた。昼時に空室だと女性たちがお弁当を広げて談笑しているのを見かける。南側に窓があるから春や秋は気持ちの良い部屋だ。夏は日差しが強くて地獄なのだが。

 ここ数日、多田は柚乃宮と車通勤していた。柚乃宮の母をロビーで見掛けて以来、営業に使うという名目で申請を出して許可を得ていた。その恩恵を預かって、今日はうんざりするほど重いウェディング雑誌やら資料を持ち込んでいた。

 ウェディング関連の資料はどれもこれも分厚い。当初はいったい何をそんなに載せることがあるのだろうと思っていた。しかし仕事と割り切って読み進めていくと、結婚に限定しなくても日常的に使える情報が溢れていた。流行りのスイーツを含めた贈り物のことやその作法、美味しいレストランなど、営業にも役立ちそうな情報だ。馬鹿に出来ないなと妙に納得して、ここ数日雑誌を眺めていた。

 重たい紙袋を下げてエレベーターに乗り込む。柚乃宮と松林には今までうちで手掛けたものの他に、既存のものを集められるだけ集めてもらっている。

 早いところ方向性が見えてくれると助かるなと思いながら、ミーティングルームの扉を開けた。




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