天気が幸いにも晴れで、見上げた星々はあちらこちらで瞬いている。もう長らくこんなにゆっくりと空を見上げたことはなかった。都会とは人のいる場所の明るさが違うから、漆黒の中に輝く星に身体ごと吸い込まれそうになる。天の河銀河をしっかりと認識できるほど綺麗な星空を肉眼で見るのは初めてだった。
天体の授業で夏の大三角形やらなにやら習ったが、見上げてもどれがどれだかわからない。多田に聞いたら、俺もあんまり憶えてないな、と返ってきた。
「こと座のベガと、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブが夏の大三角形だったと思うよ。でもこれだけ星があるし・・・よくわからないな、俺も。」
三六〇度、見渡す限りの星空は迫力があった。夜なのに星の明るさで山の稜線がくっきり見える。
暫し時間が経つのも忘れて、二人で見入った。
風が吹くと冷気が?を撫でていく。
多田の言ったとおり、陽が落ちた後、肌寒くなった。緑が多いから日中の暑さを和らげてくれるのも早い。
「綺麗ですね。少し怖いかも。心ごと吸い取られちゃいそうな感じ……。」
「心も身体も、どこにも行かないでくれると嬉しいんだけどね。」
多田が手を握ってきたが、点々と外灯があるだけで、誰かに見えるわけでもなさそうだったから好きにさせた。
「多田さんって、結構寂しがり屋ですよね。」
「健斗、そういう事は気付いても言わないんだよ。増長するだけだから。」
「悪化するんですか?」
答える代わりに背後から抱き締めてくる。歩道から少し離れてはいるが、見えないとはわかっていても緊張する。
「怖いんだ。今が幸せ過ぎて。みっともないってわかってても、それ以外の自分になる方法がわからない。」
多田をみっともないなんて思った事はない。仕事をしている時の彼は見惚れるくらい格好良いし、プライベートくらいは甘えて寛ぎたいのだろうなと思うだけだ。
「俺は、今の多田さんが好きですよ?」
頬に多田の唇が少しだけ触れて、離れた。
言葉がなくても心が通じ合う瞬間は満たされる。相手をただ純粋に思って思われることが幸せだと感じる。多田と付き合って、そういう気持ちが自分の中にあることを知った。
「身体が冷える前に部屋へ戻ろうか。」
身体も動かし、程よい疲れが身体を纏っている。そのまま二人、手を繋いでコテージへ戻った。
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