すべてが構って欲しい口実。
柚乃宮の秘部を掻き回す手が止まらない。長らく受け入れていなかった場所はなかなか緩まず、心だけでなく身体にまで拒まれているような気がしてしまう。
柚乃宮がただ疲れているだけなんだということは、もちろん理性ではわかっている。この一か月、自分の理性に言い聞かせてきたけれど、柚乃宮の態度に少しずつ痛めつけられて、ついに限界点に達してしまったのだ。
相手にしてもらえない寂しさを、他の何かで埋める事はできない。柚乃宮の代わりになるものを探そうとも思わない。
最初から同じ熱量じゃない。柚乃宮が慕ってくれる気持ちが嘘だとは思わないけど、多田が募らせてきた圧倒的な劣情とは質が違う。だからいつも自分の方が沸点は低い。その差をどうにかする事はできないし、これから先も縮まることはないだろう。
「はや、いッ・・・さと、し、さ・・・んッ・・・ふぅ・・・」
「もう忘れた? 息吐いて、力抜いてて。」
「ん、あ・・・できな、い・・・や・・・」
自分の手が性急で、いつもより強引に迫っている自覚はあった。けれどイヤだとしがみ付かれて、頭がカッと熱くなる。込み上げた感情が怒りなのか愛しさなのかもわからなかったけれど、余計に煽られたことだけは事実だ。
乱暴になんてしたくない。いつだって優しくありたいと思うのに、止められない自分が嫌になる。この一か月地雷を踏まれ続けた結果だ。同じだけ微笑み返してほしくて、望むだけの反応が貰えないことに駄々を捏ねている。
「やッ・・・さとし、さ、待っ・・・」
疲れた目と火照った頬。どちらを優先して信じたらいいだろう。指に絡みついてくる柚乃宮の内壁が物欲しそうに蠢いて誘っているような気がする。自分はというと、突き入れたい気持ちでいっぱいで、彼に包まれたらすぐにでも爆ぜてしまいそうなくらい切羽詰まっていた。
「待つ、って、あとどれくらい? 待てないよ、ほら。」
はしたないと思われたっていい。事実、欲望をぶつけようと昂っているのだから。先走りで濡れた自分の硬茎を、柚乃宮の手に掴ませる。
「んッ・・・健斗・・・」
彼の手に無理矢理押し付けたようなものなのに、柚乃宮の手が愛撫をくれる。扱いてくれる手に息を詰めて、同時に表現しようのない安堵に心が包まれた。
本当はいつも不安なのだ。だから柚乃宮の関心が自分へ真っすぐ向けられていないと、どうにか身体だけでも奪いたくなる。抱けば柚乃宮の目がジッと自分へ注がれることを知っているから。潤んで熱を帯びた瞳に見つめられると、その瞬間は満たされる。しかし皮膚に食い込むほど縋ってくる手が離れていくと、もう次の瞬間には不安になるのだ。その繰り返しで、本当の安心など訪れることはない。
「ッ・・・挿れていい?」
柚乃宮の手を汚す蜜が増えた。もういつ噴き出してもおかしくない熱を、どうにか彼と一つになって身体の奥深くに注ぎ込みたい。
「聡さん・・・ゆっくり、して・・・」
「ゆっくりしてたら、挿れる前にイくからダメ。」
「んッ・・・あ・・・ふぅ、うッ・・・」
今日は何一つ柚乃宮の意思を尊重できそうにない。抜き去った指の代わりに己の硬茎を宛がって、小刻みに揺らしながら柚乃宮の中を侵食していく。
「あ、あぁ・・・さと、し・・・さッ・・・」
「平気? 気持ちい・・・すぐ、イきそう・・・」
「ふぅ・・・んッ・・・」
柚乃宮に身体は大丈夫かと口にしながら、本当は気遣う余裕なんか欠片もない。深くまで押し入ったところで、すぐに律動を始める。しがみついてきた柚乃宮の手が爪を立てて、多田の背に深く食い込んだ。
「教えて。知りたい。健斗・・・何も、言わない、から。不安、だよ。」
「なん、でッ・・・さとッ、し、さ・・・」
情けない。今まで晒してこなかった分、本当は不安だらけだと打ち明けることは怖かった。けれどそれ以上に、柚乃宮の気を惹きたくて必死になっている。忙しくても、疲れていても、一番最初に自分の顔を思い浮かべて欲しい。
ひとつになり、腰に響いてくる快感は、自分で慰める行為の何百倍も満たされる。一か月、何も刺激せずに過ごせるほど枯れることもできなくて、疲れた顔をして眠る柚乃宮の横で、バレてもいいと開き直りながら幾度か精を吐き出した。
しかしたった一度この腕に抱けるだけで、その虚しさは吹き飛んでいく。飽きられることを恐れながらも、性懲りもなくそれ以上を求めてしまう欲深さに、戸惑いは常にある。でも想いは止められない。どうしたって欲しい。
身体が解放に向かって騒ぎ出して、何で素っ気ないの、と詰め寄りたい気持ちでいっぱいになる。もう気付いた時には声に出して柚乃宮を問いただす言葉を吐いていた。
「俺、何か・・・した?」
「ッ・・・え・・・?」
「なんで・・・ッ・・・昨日は、ダメだったの?」
今朝は何事もなかったように振る舞ったけど、本当は昨夜柚乃宮に拒まれたことを気にしていた。
「しご、と・・・」
「忙しくて、疲れてた?」
「んッ・・・」
多分、何と言われたって不安は消えない。どんな言葉もその場しのぎで、深くまで根を張った多田の恐怖を鎮めてはくれないのだ。
「すきッ・・・聡、さんッ・・・」
「ッ・・・」
予期していなかった言葉と抱擁に、身体中がざわついて、予期せぬタイミングで膨れ上がっていた熱を柚乃宮の奥に叩きつける。
「ッ・・・くぅッ・・・」
「あ、さとッ・・・さ・・・」
「ん・・・けんッ、と・・・」
蠢いた中に搾り取られながら、久々の絶頂感に身体が震える。阻む物もなく熱塊を柚乃宮に包まれて、愛されていると錯覚してしまう虚しさをどこにぶつけたらいいんだろう。
「好き、です。ホントに・・・。仕事、一杯いっぱいで・・・当たって、ごめんなさい。」
「健斗・・・。」
「・・・何ですか?」
「俺が・・・好きな気持ち押し付けたから、勘違いしてるだけじゃない?」
「え?」
「本当に・・・俺のこと、好き?」
驚いたように見開かれた目が、急に怒りの表情に変わる。これほど強く柚乃宮に睨まれたことはなかったから、胸を占めていた不安のやり場に困る。
「ッ・・・痛ッ・・・」
思い切り頬を掴まれて、多田は小さな悲鳴を上げる。逃げ腰になったところを足でがっちりホールドされて、頬に痛みが蓄積していく。
「・・・しませんから。」
「え・・・?」
「勘違いで、男とセックスできませんから!」
「・・・そ、そっか・・・。」
「聡さん、優しいし・・・素っ気なくしても、きっと大丈夫って・・・。」
「・・・。」
「大体・・・仕事の半分以上、聡さんが持ってきた仕事ですよ。」
だって良い仕事してくれるから。競って沢山仕事を持っていきたくなるんだ。
柚乃宮の機嫌を損ねるほどに仕事を割り振っていたのは、紛れもなく自分。
「残業前提で仕事振ってくるわりに、構ってほしいって・・・。」
「・・・。」
「しかも勝手に勘違いして怒るとか・・・タチ悪いです・・・。」
「ご、ごめん・・・。」
ここまで露骨に柚乃宮から叱責を受けたのは初めてのことだ。
自分の言動を振り返って、多田は苦笑いしかできない。
どうやら柚乃宮の事になると、悦に入ったり落ち込んだり、思い込みが激しくなるらしい。よく考えれば、柚乃宮の疲れや彼を不機嫌にしていた原因に、すぐ気付けたはずなのに。
「だって、好きだから・・・。」
効力のない言い訳。でも自分にとってはそれが真実だから、これ以外に言いようがない。
「わかってます。」
「・・・ホント?」
「聡さん。怒りますよ?」
「ごめん・・・。」
現金なことに、ホッとしたら柚乃宮の中で大人しく収まっていたモノが再び硬度を持ち始める。
「健斗・・・いい?」
「今度は・・・ゆっくりしてくださいね。」
「・・・うん。」
抱き締め返してくれた柚乃宮の手に、安堵で泣きそうになる。もう少し柚乃宮の仕事量を考えようと心に誓い、苦さを噛み締めながら、目の前にある幸福に手を伸ばした。
投稿が入り乱れておりますが、変わらずご覧いただきまして、ありがとうございます!!
この二人をガッツリ書くのは久々でした。
仕事では相変わらず多田→柚乃宮の力関係でしょうけど、プライベートは多田←柚乃宮になっていたらいいな、と思いながらキーボードを叩きました。
恋人が構ってくれない・・・と悲壮感に漂っていた多田ですが、自分でその種を蒔いていました。
多田は、登場した時がピークでどんどん残念な人に・・・。
しかし私としては残念さ加減が愛おしいと思って書いているので、このまま下降線を辿っていく予定でございます(笑)
昨日は風が強く、我が家のバスマットが飛んでどこかへ消えました。
誰かに当たってケガをしていたり・・・なんてことにならないといいのですが。
インフルエンザが下火になってきたと思ったら、次は花粉・・・。
ガスマスクと防塵メガネを付けて出勤したいと言っていた元上司の言葉が頭をよぎる季節がやってまいります。
皆さまがどうか健康で過ごせますように。。。
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朝霧とおる
1. 無題
このお話し、なぜかつぼにはまってしまって何度も読み返しています♪
>残念さ加減が愛おしい
なんとなく分かります、そのお気持ち(笑)
多田が下降線を辿ろうとも、二人の仲は結局ラブラブ~なんでしょ♪
Re:無題
いつもコメント頂きまして、ありがとうございます!!
何度もご覧いただけるなんて光栄です!
恋をして夢中になると、周りが見えなくなって、普段当たり前に出来る事が出来なくなったり、突飛な事をしてしまったり。
振り回される楽しさが表現できていればいいのですが。。。
柚乃宮の尻に敷かれつつ、きっと多田は幸せなはずです(笑)