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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

ご機嫌な彼氏4

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ご機嫌な彼氏4

神田というカメラマンの前に立ち、スタジオ中の人間に注目され撮られている彼は、確かに美しい青年だった。

中性的で人を寄せ付けないような冷たさと、構いたくなる大人になりきれていない隙を併せ持つ。

素人とは思えない存在感。運が味方をすればきっと大成する。そう思わせるモデルだった。

柚乃宮が彼に向ける目は真剣な眼差しそのもの。それもそのはず、具体的な注文をカメラマンにしているのは彼だし、思い描くイメージ以上のものを引き出して、制作に繋げなければいけない。限られた時間の中で、神田と青年の仕事を見極めなければならないのだ。

休憩を挟む予定だったが、ノっているらしくカメラマンの神田が手を止めない。高まっていくスタジオの緊張感と白熱した静かな闘いが見ているこちらを圧倒させていた。

ここまで本格的な撮影に同行するのは多田も初めてだった。まだまだ自分が知らない世界は沢山ある。単調になりがちな仕事三昧な日々に、こういうものがまた新しい刺激となってくれる。

お金と時間という制約がある中、今まで自分がしてきた仕事の概念を揺さぶる芸術的な目。柚乃宮がいなかったら、自分は一生興味を示せなかった視点だろう。

声を掛けるのは憚られた。別の客のところへ行かなければならないのが惜しい。今日は打ち合わせを入れるんじゃなかったなと後悔する。

少し見て満足する世界じゃない。一度触れればのめり込んでしまうほど魅力的な世界だった。

こっそり柚乃宮の側から離れ、音を立てないように退席する。ここまで名残り惜しいのは本当に初めてだった。


* * *

退社しようと多田がデスクから立ち上がったのを見計らったようにスマートフォンが鳴る。電話の相手は柚乃宮だった。今掛かってくるという事は撮影が滞りなく終わったということだろう。

「柚乃宮、お疲れ様。」

『お疲れ様です。今無事終わりまして、その連絡を、と思って。』

「ありがとう。途中で抜けて悪かった。」

『気付いたらいなくて。でもすぐ次の仕事控えてるって聞いてましたから。』

「大橋さんの反応はどう?」

『凄い喜んでくれて。早速データ貰ったので、今日は残業します。』

気分が高まっている勢いのまま仕事をしたいのはわかる。しかし今日は金曜日。週末を二人でまったり過ごすという多田の計画は早くも暗礁に乗り上げてしまう。けれど張り切っている柚乃宮の邪魔をするわけにもいかない。

先週は思う存分抱き潰したのだから、と自分を慰めて、柚乃宮にエールを贈る。

「頑張って。」

『はい。』

終わったら来い、という言葉は呑み込んだ。仕事に夢中な彼にそれを言うと、機嫌が悪くなる。

『じゃあ、お疲れ様でした。』

「うん。お疲れ。」

呆気なく電話を切られてガックリ肩を落とす。しかし視線を感じて隣りを見れば、笹塚が面白そうにこちらを見て笑っていた。

「相手、柚乃宮くん?」

「ああ、まぁ・・・。」

「フられちゃったんですか?」

「・・・そんなとこ。」

残念で笹塚に言い返す気力もない。こんなにも振り回されているのだという事を、柚乃宮が知る事はないだろう。元々マイペースで人の心の機微には疎い。

「多田さん、って柚乃宮くんのこと、好き過ぎません?」

「・・・そう?」

事実だから否定する気はない。

「いっそ付き合っちゃえばいいのに。」

冗談混じりにでも肯定すれば、笹塚の事だから明日には噂に尾ひれ背びれが付いて話が広がってしまう。

「さすがにそれはないよ。」

言いながら虚しくもなるが、保身するべきところはしておかないと、仕事に悪影響を及ぼしかねない。冗談で済ませられる事とそうでない事の線引きは自分たちでしっかりやって、選択をする必要がある。

「彼女と結婚しないんですか?」

「は?」

「仕事終わりに、時々楽しそうにケータイいじってるじゃないですか。女の勘を舐めないで下さい。いるでしょ? 彼女。」

本当に油断も隙もあったもんじゃない。気を付けないと面倒な事になる。

「ほっといてくれ。」

柚乃宮との甘い週末が駄目になったばかりか、同僚にまで弄られるなんて散々な金曜日だ。

多田は若干投げやりな気持ちで、職場をあとにした。
















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