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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

宮小路社長と永井さん『アクアリウム』43

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宮小路社長と永井さん『アクアリウム』43

宮小路から三回。非通知の着信が十件以上。熱も下がりすっきり目覚めた永井が目にしたものは、異常な着信履歴だった。

頻繁に連絡してくる親しい友人はいないので、勤務時間外に永井の携帯電話が着信を告げることは稀だ。一晩の内にこれだけの着信を得たのは、人生で初めてのことだろう。

「もしかして、何かトラブルとか?」

仕事を依頼されている以上、宮小路の方はトラブルも考えられる。しかし自分に繋がらなければ事務所にも掛けるはずで、事務所は井伊夫妻の自宅も兼ねていることから、二人が連絡を寄越してこないのはおかしい。どちらかというと私用なのではないかと踏みつつ宮小路へメッセージを送ってみると、仕事の送り迎えをさせてほしいという、妙な要求が返ってくる。

「送り迎えって……なんで?」

一つ小さな欠伸をして首を傾げる。子どもでもあるまいし、職場と自宅は大した距離ではない。これまで何事もなく通勤してきた道を、何故成人している自分が送り迎えされねばならないのか。

散々迷った挙句、どうしてですか、と端的に返信する。すると、ちょっとでも一緒にいられる時間を作りたいから、と朝から甘さ全開のメッセージがディスプレイに映し出された。

「……。」

朝は何かと慌ただしくて落ち着かない。ギリギリまで寝ていたい日もあるし、情報収集に費やしたいこともある。どちらかというと一人でいたい朝を拘束されるのは気が向かない。

夜に関しても、毎晩会っていたら家に帰れない日が多くなるに違いないのだ。言いくるめられて、宮小路の自宅に入り浸る日々が容易に想像できてしまう。

「どうしよう……。」

素っ気なくあしらいたいわけではない。嫌われたくもないけど気が重いというのは贅沢で我儘なんだろう。

しかし一旦既読にしてしまったメッセージを放置するほど肝が据わっているわけでもなく、昼に店で落ち合う約束をして返事を有耶無耶にする。宮小路から追及はなく、一息つく。

「よし。片付けないと。」

脇に差していた体温計が軽快に音を鳴らす。熱がないことを確認して立ち上がると身体の節々の痛みも昨日より和らいでいた。

体調不良で放置してしまった諸々の家事に着手し、忙しない永井の朝が始まった。


* * *


一晩水に晒しておいた型染めの布地を桶から引き揚げて、永井は天日干しへ向かう。夏の日差しは衰えることを知らず、まだまだ暑い日から解放されることはないだろうと首に掛けたタオルで汗を拭う。

「昼には乾くかな。」

乾くのを待つ間にも試作は続く。今度は縦糸と横糸を編む前に型染めをして糸への染色をより濃くする方法を試すのだ。手間もコストもかかるが、色ムラはより軽減されて、リバーシブルでも通用するほどの仕上がりになる。クリーニングを多く繰り返すことを思えば、これくらいの品質があってもいい。

マリィも期待してくれている。本人に会い、直接話を聞けたことは永井のモチベーションを上げることに一役買っていた。宮小路はおだてるのが上手い。自信のない永井の性格も見越して彼女に会う時間を設けてくれたのだとしたら、感謝は尽きない。

人の上に立つべく生まれた人というのは永井には眩しい。自信と余裕が漲る宮小路を見ていると、羨ましいというより感嘆するばかりだ。彼のようになりたいともなれるとも思わない。けれど宮小路が何かと永井を気に留め興味と好意を持ってくれていることは素直に嬉しい。彼のアプローチには驚きの方が大きくて、まだ自分の身に起きていることだという実感は希薄だけれども。

「たぶん、風邪じゃないな……。」

知恵熱とも少し違う気がするが、衝撃的な出来事に身体がびっくりしただけのようだ。身体は鍛えていないし柔軟も不十分なので、宮小路に抱かれて永井の身体は驚いたのだろう。

そしてふと湧いた疑問は永井の中で大きく膨れ上がっていく。

酔い潰れたあの夜、本当に自分は宮小路に抱かれたのかということだ。

振り返ると、翌朝身体に何も異変がなかったのはおかしい。先の週末が特段手酷い行為だったとは思わない。求められることがあんな激情を伴うものなのだと感極まってはいたが、宮小路は終始優しかった。

「振り回されてばっかりだな……。」

しかし永井の頬は緩んで、微笑みを浮かべていた。時々思いもよらぬ方向へ暴走していく宮小路の揺りかごは、今まで知らなかったことばかり永井に与えてくれる。返せるものが何もないことが、少し永井のプライドを刺すだけだ。

ペットボトルのお茶に口をつけて、工場内の掛け時計に目を向ける。段取りも良くなっていたので、新たな染色作業は昼前に目途がつくだろうと算段を立てる。

会いたいと言ってくれる人には会いに行きたい。そんな風に求めてくれる手を今まで自分は知らずに生きていたから、確実に永井の寂しさを埋めているのだ。

揺らぎやすい不安定な自分が時々自分でも面倒になるけれど、今日は宮小路と目を合わせて話せる気がする。宮小路の顔を思い浮かべて一人赤面しかけ、慌てて首を振り工場の中に舞い戻った。









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