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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

宮小路社長と永井さん『アクアリウム』42

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宮小路社長と永井さん『アクアリウム』42

長いコールは留守電に切り替わることもなく無情に宮小路の耳元で鳴り続けている。就寝するにしては早い時刻に思えたので、シャワーでも浴びているのかもしれない。

「店でも会えなかったのに……」

やはり、ちゃんと約束を取り付けておくべきだった。彼の忙しさに拍車をかけるように仕事をお願いしたのは宮小路本人だが、食い下がれば優秀な彼のことだ。ランチタイムの都合くらい付けてくれたはず。押しが弱かったと、昨日の自分を悔いる。

律儀な彼の事だから着信に気付けば返信はくれるだろうと踏んでいたのだが、待てど暮らせど宮小路の携帯電話は沈黙したままだった。そしてようやく掛かってきた電話の相手が鎌田だったため、彼の第一声に大きな溜息をつく。

『随分なご挨拶だな、宮小路。』

「悪い。別の電話を待ってたんだ。」

『ああ、彼か?』

電話越しに失笑され、鎌田の方も溜息をつく。

『今日、おまえの親父さんに会ってな。』

「碌な話じゃないだろうから切ってもいいか。」

『板挟みになる俺の迷惑も考えてくれ。直接やりあってくれりゃあいいものを。本当の事を言わない限り、延々と続くぞ。』

顔を合わせるたびに結婚の話が出るので、自然と実家から足が遠退く。鎌田は宮小路親子のとばっちりを受けているにすぎない。

「わかってる。でも今騒動を起こすと、彼に迷惑を掛ける。もうひと押しな気がするから、ちょっと待ってくれ。」

宮小路に結婚話が上がっていることを永井が察したら、余計な引け目を感じて去ってしまうかもしれない。せっかく接点ができて懐柔しようと必死なのに、微妙なこの時期に引っ掻き回されると、手にした幸運が呆気なく逃げそうで気が気ではなかった。

『はいはい。電話したのは別件だ。』

「別件?」

愚痴は余興で本題は別にあるらしい。しかし鎌田の報告に宮小路が青褪めるまで、さほど時間は掛からなかった。

「ストーカー?」

『一応彼の身元調査はするぞって言っただろ。住んでるところを確かめるために、うちの調査員が職場から彼の後を追ってたら、変な奴が近辺をうろちょろしてたらしくてな。』

「それは確かか?」

『今のところ打率は百パーだ。相当黒い。』

心当たりがある分、肝が冷えてくる。永井のところへすぐにでも駆け付けたい気分だったが、宮小路は永井の口から直接住まいを聞き出しているわけではない。鎌田から情報を貰って出向くのは簡単だが、永井からしてみれば、何故宮小路が知っているのか当然疑問に思うはずである。不審者の存在を伝えるはずが、宮小路も不審者扱いされかねない。

悶々と鎌田に心の葛藤を愚痴っていると、電話口で大仰な溜息をつかれる。

『向こうからしてみれば、おまえもとっくに不審者だと思うぞ。良くて変人だろ。』

「つまらない奴よりいいだろ?」

『そこを前向きに捉えてほしいわけじゃないんだがな。まぁ、取り敢えず伝えたからな。』

「言うだけ言って、放置か?」

要件は済んだとばかりに通話を切ろうとするので、宮小路は慌てて鎌田に食い下がる。

『警察沙汰にならない事を祈ってる。』

「冷血漢め。俺が可愛くないのか。」

『可愛いわけないだろ。彼に伝えるにしても、おまえの口から上手く事を運ばないと、かえって拗れるぞ。』

「はぁ……。」

『こっちが溜息つきたい。まったく、次から次へと……。もうちょっと穏便に付き合える奴はいないのか?』

「彼に落ち度はないだろ。あえて言うなら魅力的過ぎて……」

『はいはい。惚気はいいから、ちゃんと助けてやれよ。少なくとも今の段階で俺にできることはない。』

「……。」

子どもを寝かしつけると言って切れた通話の終了音を、宮小路は肩を落として聞く。居ても立っても居られない気持ちで永井へもう一度電話を掛けてみたが、結局この日に彼から返信はなかった。










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