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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

宮小路社長と永井さん『アクアリウム』40

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宮小路社長と永井さん『アクアリウム』40

誰も咎めたりはしないが、宮小路はいわゆる社長出勤をしない。鎌田がマンションのロビー階へ迎えに来るのが就業開始時刻の一時間前で、大学を出てこの職に就いてから辛うじて寝坊はない。

仕事が立て込んで眠気を引きずる朝や、恋人にこっぴどく振られて酒臭い朝、叩かれて頬を腫らした朝など様々な出勤を経て今に至るが、一応経営者として無断欠勤はしていない。

朝早く職場へ出てすることといえば、客に合わせた応接室のレイアウト替えや廊下に飾る絵画やモニュメントの選定、オフィス用品の在庫チェックなど、運営に関わることをマメにこなしている。

事務員を多く抱えず、デザイナーをメインに雇っているため、スタッフが出勤してすぐ各々の仕事に集中できるよう、鎌田と二人で雑務を片付けるのだ。

そして余った時間を使い、同じように早く出勤する者たちにコーヒーや紅茶を振る舞って他愛もない世間話に興じる。金融、経済など固めのニュースから、互いの趣味や恋愛の話まで、それぞれが喋りたいことを勝手に話す。お陰様でスタッフの多くが宮小路の恋愛遍歴を知っていて揶揄いの的になっていたりする。鎌田に迷惑を掛けた延長線上で出勤することが多いことと、宮小路本人がプライベートな事件を隠しておけない性分だから尚更だ。

同じグループ会社にいながら両親に問題行動の多くが伝わらないのは、スタッフの口の堅さと賢さに守られているからだろう。あとは物理的な距離故だろう。なんだかんだ、自分は愛されていると思う。

「なぁ、鎌田。」

「今、忙しい。」

「コーヒー飲んで、新聞読んでるだけなのに?」

「おまえのくだらない話より、こっちの方が優先順位は高い。」

「まだ何も話してないじゃないか。聞くだけ聞いてくれたって……。」

物心つくより前からの付き合いだ。二人の間に遠慮はない。胡散臭そうな目を隠そうともせず、新聞から目を離して鎌田が宮小路を流し見た。

「休日の報告はいらないぞ。」

「報告じゃなくて、相談だ。」

「自分で考えろ。」

「この辺の水族館だとどこがいい?」

「水族館?」

久しく水族館には行っていない。子どもの頃の記憶から更新されていないため、次々に出来上がる新しい施設の情報はわからない。しかし熱心に家族サービスをする子持ちの鎌田なら、宮小路の要望を汲む情報を持っているのではないかと踏んだのだ。

「彼とデートするなら水族館は絶対外せない。」

「休日の水族館なんて、下手すると魚じゃなくて人見て終わるぞ。ロマンチックなもんを想像してるならやめておけ。」

「出逢った場所を思えばそこは譲れない。それに貸切るつもりだから、人の多さは心配してない。」

「貸切る!? ったく……だから財布になるんだろうが。」

「昔パーティーで貸切ったことだってあるじゃないか。」

「パーティーとデートを一緒にするな。」

「どう考えてもデートの方が一大事だろ。喜んでほしいじゃないか。」

「足元見るか、引くかの二択だ。」

「鎌田。夢のないことを言わないでくれ。」

「そう思うんなら、常識的な話をしろ。」

オススメの水族館を教えてほしいだけなのに、やりこめられる悲しさ。

席を立ち、給湯室へ消えていく鎌田の背中を見送る。コーヒーを継ぎ足して戻ってきた彼は、溜息ながらに心当たりのある施設の名を挙げてくれた。結局、彼は弟分の宮小路に甘いのだ。

「タワーも隣りにあるし、夜景も見られていいんじゃないか。」

若干投げやりな言い方だが、やはり面倒見のいい兄貴だと思う。血の繋がりのある実の兄たちより宮小路へのケアは手厚い。

「それはいいアイディアだ。ディナーは創作イタリアンでお洒落に、ホテルは……」

「宮小路、プランは頭の中で練ってくれるか。俺はおまえのデートプランなんて知りたくない。」

くるりと回転椅子を九十度回して、鎌田はデスクへ向かってしまう。しかしそんな素っ気ない鎌田の態度を気にも留めず、宮小路は上機嫌でメールのチェックを始めることにした。









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