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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

宮小路社長と永井さん『アクアリウム』31

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宮小路社長と永井さん『アクアリウム』31

些細な悪戯が宮小路をワクワクさせる。騙すなんて大それた話ではない。小賢しい作戦を立てただけだ。勝手に勘違いをしてくれれば儲けもので、嘘をつくわけではない。

マリィと永井はロビーに隣接したラウンジで美味しい紅茶に舌鼓を打ちながら談笑しているはずだ。打ち合わせとは名ばかりで、マリィも井伊工房の仕事を買ってくれている。彼女の目は肥えているからこそ、永井という慎ましい青年の人柄を気に入ってくれるだろう。親しみが増せば、永井から余計な緊張を解いてやれるし仕事は捗る。一石二鳥どころか三鳥にも四鳥にもなる。

信頼関係を築くにあたり、ファーストインパクトは大事だ。勢いに乗れば、たちまち永井の長所を活かして仕事が回るようになるだろう。本当は手元で育てることができるなら本望だが、現段階では永井がそれを望んでいない。

果報は寝て待てだ。急かして関係に破綻をきたすくらいなら、じっくり関係が熟すのを待つ方が得策だといえる。

宮小路家の男が一同に揃うと、圧巻だと言う者もいるし、鎌田に言わせれば非常に暑苦しい御一行だ。宮小路も鎌田と同意見で、四人並べば圧迫感に見舞われ、テーブルだけでなく部屋さえも狭く見える。母だけが唯一小柄だが、宮小路家の子どもたちは誰も母に似なかった。長男も次男もパートナーに小柄な女性を選んだのは本能だろう。

永井は同性だから兄二人のパートナーとは違い背が低いわけではないが、こじんまりと控えめで大人しい雰囲気や所作に好みの共通点を見出せる。オーバーリアクションになりがちな宮小路とは真逆で、自分にないものを持つ永井に惹かれているわけだ。理性でも本能でも永井に嵌っているのだから、まさに運命と呼ぶに相応しい。

次兄もフィアンセも緊張の面持ちだったが、メインである牛のフィレ肉へ辿り着く頃には、すっかり場の空気も和んでいた。両家の両親から望まれた結婚で、本人たちも相思相愛なのだから当然だろう。宮小路にとってはラウンジに永井がいてくれることが唯一心の支えだ。

遠くない将来、両親の矛先が自分へ向かうことは必至で、宮小路はどうにかその猛追をかわし続けなければいけない。

「呑気に笑っている場合じゃないぞ、彰。次はおまえだ。」

「困りましたね。繊細なお年頃なので、勘弁してください。」

「またおまえは茶化す。」

「そう仰るかと思いまして、連れてきましたよ。」

「誰を?」

「恋人を。連れてきたというより、たまたま下で鉢合わせただけですが。今ラウンジでお客様と打ち合わせ中ですから、割って入るのはやめていただきたい。」

「まったく、おまえは……何でそう唐突なんだ。今度ちゃんと紹介しなさい。」

宮小路は父の勉に向けて大仰な溜息をつく。本音と演技が混じり合った絶妙なクオリティだと内心自分を褒めた。

「今、二人にとって大切な時期なんです。関係が成熟したら連れてきます。ですから今は放っておいていただきたい。」

「ほぉ。おまえがそこまで言うのは初めてだな。」

「今回のお付き合いは真剣ですから。」

重ねて商談中だと話を盛ったので、さすがに邪魔をする気にはならなかったのだろう。遠目で観察することで手を打った父だが、宮小路の算段通りに弄ばれているとは露ほどにも思っていないに違いない。

顔合わせが和やかなムードでお開きになり、ぞろぞろと両家で最上階のレストランからロビー階へ降りる。ラウンジの窓側に席を取ったのは正解だ。永井とマリィがいる場所を示すと父が唸る。

宮小路の目に映るのは当然永井の姿だが、父は明らかに永井の向かい側に視線を注いでいる。

「これまた気の強そうな相手じゃないか。」

「そうですか?」

きちんと説明しない自分に非はあるが、勝手に勘違いしているだけだと開き直る自分もいる。褒められた行為ではないが、宮小路の心は鋼鉄で出来ているわけでもなく、この性癖を頭ごなしに否定されることがあれ、それなりに傷付く。必要な自衛だと自分に言い聞かせるのは、本当に永井との関係が大切で、さらに温めていきたいと望んでいるからだ。下手に介入されれば永井を傷付けるかもしれない。そんな事になったら自分で自分が許せなくなるだろう。

世間の荒波から包み隠すほど脆く弱い恋人ではないはずだが、好きな人を守りたいというのは当たり前に湧く願望だ。

「綺麗でしょう? 惚れ込んでいるんです。」

「綺麗なのは認める。」

親子で別の人間を見ながら頷き合う。

やはり本当の事を言うべきではないと、宮小路は固く決意をした。










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