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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

宮小路社長と永井さん『アクアリウム』29

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宮小路社長と永井さん『アクアリウム』29

二人でランチタイムを過ごし、その足で向かった紡績工場。せっかく一緒にいるのに永井は仕事熱心で、宮小路の邪な視線は跳ね除けられてばかりだ。残念な気持ちが半分、予想通りの恥ずかしがり屋具合に微笑ましさ半分。工場へ入ってからというもの、口調こそ丁寧だが、目も合わないし素っ気ない。デート気分で現場に乗り込んだと永井に知られたら、さすがの彼も呆れるだろうか。鎌田などに目撃されていれば大目玉を食らうだろう。

宮小路と永井の目の前では、ガラガラと忙しなく糸車が回り、短い繊維を撚って長い糸が作られていた。稼働しているほとんどの機械は綿を撚っているらしく、真綿の優しい匂いで満ちている。品質の良さを謳うだけあり、工場内は隅々まで手入れが行き届いており、機械や作業員たちの装いも清潔そのものだ。

「こちらが今回使用する絹糸です。どうぞ。」

紡績工場の担当者から手渡された糸の束は非常に軽く肌馴染みがいい。柔らかさと光沢は抜群で、宮小路も納得のいく品質だった。

個人的に買い付けて、永井の寝間着にしたいと思うくらいには惹かれ、横に並ぶ永井のことを、ついじっくり眺める。

眼下に収める漆黒の髪は今日も麗しい。白いシルクの合間から手足や首元が艶めかしく露わになるところを想像し、慌てて湧いた妄想を打ち消す。仕事中には似つかわしくない刺激的な光景だ。

「染めるとしたら、やはり草木染でしょうか。」

「そうですね。こちらは練糸ですから。染めの方にもご興味が?」

「ロゴマークを刺繍にするか染めでいくか迷っているんです。」

「肌に当たる部分でしたら違和感が出ないように染めの方がいいかもしれません。」

担当者から二つ三つ適した染色方法を確かめて、手帳に走り書いていく。永井の方は勝手知ったる様子で、静かに二人の会話を聞いていた。

「永井さん、染色具合も期日までに見せていただくことは可能ですか?」

「はい。ご用意させていただきます。」

即答した永井に宮小路は目を瞬く。どうやら予想の範疇だったらしく、彼が宮小路の要求に驚いている様子はない。なかなか優秀な想い人だと感心して、宮小路は永井に心からの満足で頷き返した。

「本日は以上です。ご足労いただきまして、ありがとうございました。」

「こちらこそ。」

他人行儀な挨拶がいじらしく、どうにか微笑みの一つでもくれないものかと思案する。澄まし顔に見えていたが緊張はしていたらしく、引き締まっていた唇と頬が宮小路の前で微かに緩んだ。

血色の良さをたたえた唇は、初めて目に留め、惹かれた時のままだ。見入っていたら、永井が視線を感じたらしく困惑した様子で顔を逸らす。外で大きなバイクのエンジン音が聞こえなければ、危うく手を伸ばすところだった。

表のドアが開き、汗を滲ませた青年が立つ。

「回収に来ました。」

「ああ。お疲れ様です。すみません、ちょっと失礼します。」

担当者が永井と宮小路のそばを離れ、事務所の中に消えていく。再び現れるとその手にはたくさんの御重箱を抱えていた。どうやら出前の容器を回収しに来たらしく、事務所の前が俄かに慌ただしい空気に包まれる。

しかし宮小路が一瞬眉を顰めたのは騒がしさの所為ではなく、回収に来た青年の顔に見覚えがあったからだ。ちらちらと永井の方へ視線を送るものの、彼は会釈などをする様子もなく不自然に目を逸らす。

「永井さん、あちらの方とは面識がおありですか?」

「え?」

「あの青年です。」

ひっそりと永井へ耳打ちしたのは、青年に会話を聞かれたくないからだ。

「いいえ。こちらに詰めることは何度かありますが……。どうしてですか?」

「いえ。何でもありませんよ。」

間違えなく『アクアリウム』で頻繁に見かける人物だったが、当の本人がまるで気付いていないようなので、宮小路は微笑んで口を噤む。執拗に思える永井への観察を自分が責めるわけにはいかないが、恋人気取りの宮小路は当然快くは思っていない。毎度その視線に気付くたび、水を差されたような気分になる。

「永井さん、ご挨拶をしてお暇しましょうか。」

宮小路の読めない言動に戸惑っているのか、永井が曖昧に頷く。しかし面と向かって問いただすほど気に留めてもいないのか、担当者へのあいさつもそこそこに、二人は紡績工場をあとにした。









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