映画の仕事を受けることにした恵一の生活は一変した。一ヶ月という期限付きではあるが、朝早く家を出て夜遅くに帰ってくる。そしてそこから大学の課題をこなすというハードなスケジュールだ。しかし根も上げず奮闘している様を目の当たりにしていたから、紳助も黙って見守ることにした。
「紳助」
「うん?」
紳助自身も建築事務所のアルバイトとして仕事を始めたので夜が遅い。二人揃ってベッドへ入るのは深夜二時も回ったころだった。
「ちょっとだけ・・・」
擦り寄ってきた恵一の身体を抱き締める。昂った神経と疲れた身体が、恵一に妙な興奮を呼んでいるらしい。
色を宿した瞳を見ようと目を合わせると、恵一が視線を逸らそうとする。単なる恥ずかしさからだと思っていたが、瞳の中に気不味さを見つけて、これはいつもの恥らいからくるものではないなと勘付く。
「恵一」
「・・・。」
「どうした?」
「どうした、って・・・」
「何か隠してるだろ?」
恵一は紳助の独占欲の全てを知っているわけではない。閉じ込めて、一時も目を離さずに過ごしていたいのだと知ったら呆れるだろうか。
目移りしていたっていい。華やかな芸能界へ足を踏み入れて、紳助より魅力的に思える人間だって山ほどいるだろう。最後にこの手に戻ってくるなら何でも許す。ただ、隠し事は許さない。あずかり知らぬところで何かが起きているなら、黙ってはいられない。
「恵一」
彼の瞳の中には戸惑いだけがあった。そして静かな口調で威圧する自分へ向けられた、ほんの少しの恐怖心。
「ホントは、そんな予定、なくて・・・」
「予定?」
「手・・・繋ぐだけのはずだったんだ・・・」
撮影の事だとすぐに合点がいった。台本にはないことが起きた。それが恵一の意にそぐわないものだった、というだけのことだ。
誰か先輩俳優にでも手を出されたのかと、そちらに神経がいっていたから、紳助はホッとする。
「で?」
紳助の逆鱗に触れるのではないかと萎縮する恵一が可愛くて、あえて話の続きを促した。
「・・・キス、しちゃって・・・」
「へぇ。」
「でも、ホントに、誓って、ちょっとだけ!」
「おまえからしたの?」
「ッ・・・」
きっと恵一は映画の世界観に溶け込み、役に成りきっていただけ。モデルとして初めて撮影に挑んだ彼を見た時にも、何か得体の知れないものが憑依している感覚がした。
側でその彼を見てみたかったな、と少し残念に思う。けれどそれだけだ。何かの衝動に駆られてやったことであっても、それが役を通してのものなら、紳助としては文句を言う立場にはない。嫉妬をしたところで、フィクションにまで腹を立てていたらキリがない。
「紳助・・・」
「おまえは俺のものなんだろ?」
「うん。」
「なら、何も変わらない。」
嫉妬が皆無なわけではない。けれど醜態をさらしたところで恵一が喜ぶかというと、それは少し違うだろう。戸惑う。たぶんそれが一番正しい。
揶揄うのはこれくらいにして、気持ちよくしてやりたい。
キスの雨を降らせて早急に剥き身にすると、スルリと手と足が伸びてきて、紳助を絡め取ろうとする。
「紳助」
「うん?」
「・・・怒って、ない?」
「怒ってないよ。おまえの仕事だろ?」
「そう、だね。」
恵一が複雑そうな顔をするので、嫉妬をして欲しかったのだと気付く。しかし本当に嫉妬した暁には困るくせに、と内心笑って抱き締めた。
「んッ・・・ん・・・」
手の中で二人の分身が硬くなっていく。恵一の仕事が始まって、まだこの身体を繋いでいない。欲しくて堪らないのはお互い様だが、後先考えずに無茶ができるほど、子どもではない。
「・・・あ、きもち・・・ッ・・・」
恵一の昂ぶる先端に刺激を与えてやると、気の向くままに恵一が腰を突き上げてくる。達したいけれど達せない。そういう気持ち良さだ。
抱かれて身も心も解放することが自然なことだと教えたのは、紛れもなく自分。紳助が施すことを覚え、その身を持って愛されることを知ってきた恵一。
でもまだ足りない。心の全てを明け渡してくれるまで、まだ時間が必要だろう。彼の心の傷にはまだ紳助の心配りは行き届いていない。
「あッ・・・あ・・・ん・・・あぁ・・・」
紳助の下で、恵一が焦ったように頭を無造作に振る。紳助の腕に手を伸ばして、極まる瞬間を待ち侘びて、紳助の手から送り込まれる快感を素直に受け止め続けている。
「そこ・・・ダメ・・・あぁ・・・あッ」
恵一の立てた爪が紳助の腕に食い込んだ時、息を詰めた恵一が先端から白濁の蜜を散らせる。
愛おしい痴態に誘われて、紳助も競り上がってきた熱を気の向くままに解き放った。
二人で溢した蜜が、恵一の腹部や胸部をたっぷりと汚していた。恵一が嬉しそうにそれを見つめるものだから、ついつい紳助の腰に響いてくる。
「しん、すけ・・・また・・・」
恵一が射精しても萎えない紳助の分身に手を伸ばしてくる。恵一から手を伸ばしてくることなんて、滅多にない。手を伸ばすのは自分の方が圧倒的に多いからだ。
何も言わず好きにさせていると、ついに起き上がって、紳助の硬茎を口に含む。
分身が波打ったのが、自分でもわかった。恵一の綺麗な唇に擦られて、硬茎はあっという間にはち切れそうになる。
「恵一・・・」
「んッ・・・ふ・・・」
今日は彼の顔を汚したい。そんな妙な征服感に襲われて、恵一の口元から己を出して、彼の顔を塗り潰すように蜜を放つ。
「ッ・・・」
「ッ・・・ん・・・」
恵一が暴れもしないで受け止めるのを息を切らしながら眺める。恋人汚して満たされるなんて悪趣味だと思いながら、全身に駆け巡る快感には逆らえなかった。
恵一が照れ臭そうに目を逸らすので、そんな事をされるとさらに仕掛けたくなる。
「恵一」
「わッ・・・」
追い掛ければ逃げたくなるのが動物的な本能だろう。ベッドから降りようとした恵一を抱き上げて、シャワールームへ直行する。さすがに汚したままの状態で寝させるわけにもいかない。シャワーの温かい湯で洗い流してやると、眠そうな顔が寄り掛かってくる。
「紳助」
「ん?」
「撮影終わったら・・・」
「うん?」
「いっぱい・・・して・・・」
可愛いお強請りに快くキスで応える。触れ合うだけなんて足りない。だって繋がった時の快感を自分も恵一も知っているから。
「恵一。あと少し、頑張れよ。」
「うん。」
「絶対見るよ。」
「え・・・なんか、恥ずかしい・・・」
「だから見るんだろ?」
「悪趣味・・・」
「否定はしない。」
湯冷めしないように、手早く恵一の身体から湯の玉を拭い去っていく。白い肌がどこまでも続く背にキスをして、再びベッドへ恵一を運んだ。
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朝霧とおる