紳助の連れてきてくれた南禅寺。南大門は登ることができて、京都の街が一面に広がっていた。
風がまだ冷たい所為か、人がまばらだ。壁に寄り掛かりながら座り込んで、京都の街を見る。春になるにはまだ少し時間が必要で、木々は寒々しい姿だった。
二人きりになれる瞬間をジッと待って、紳助と自分以外の気配がなくなった頃、そっと彼の肩に頭を預けた。
岡前に口酸っぱく言われた。人前でそれとわかるような行動をするなと。
でも少しくらい許してほしい。ちょっとだけだから。
紳助の手に自分の手を重ねてみる。彼らしくもなく緊張が伝わってきて、恐る恐る紳助を見上げると困った顔をしていた。
「恵一」
「・・・。」
わかってる。でも、もうちょっとだけ。そう思っていたら、紳助が立ち上がってしまう。
「・・・行こうか。」
こんなに好きなのに堪えなければいけないものが沢山ある。けれど紳助の方が正しい。だから渋々立ち上がって、彼の後を追って階段を降りた。
庭園を見て一周すると紳助が苦笑しながら顔色を窺ってくる。
「恵一、チェックインしに行くか?」
「・・・うん。」
二人きりになりたいという気持ちを無言の圧力で押し通した感じ。気恥ずかしいけれど嬉しさの方が勝った。
今は二人でどこかを歩き回るより、二人きりになりたかった。そして誰も見ていないところで紳助に思いきり身体を預けたい。
去年とは違う宿へ足早に向かう。京都へ来てから一番足取りが軽くなった。
* * *
一年前よりグレードアップした宿へ辿り着いて中を巡ると、何故紳助がここを選んだのかがわかる。
部屋と部屋が隣り合わず、小さい庭を挟むような形で飛び石のように配置されている。ちょっとやそっと騒いでもお互い気にならない。
しかし駅から離れていて交通の便が良いとは言えず、建物も中途半端に古いため、学生にも手頃な値段で泊まれる。よくこういう所を見つけてくるよな、と変に感心をしてしまった。
「これじゃあ、やってる事が家と同じだな。」
「・・・それでもいい。」
愚痴を溢しながらも紳助は優しいキスをくれる。彼の柔らかい唇に包まれると、もう何もかもがどうでも良くなってしまう。
「岡前さんに、ダメだ、ってあれだけ言われただろ?」
「うん。だって・・・」
今度は咎めるように噛み付いたキスをしてくる。
「外ではやるな。」
「・・・。」
「睨んでもダメなもんはダメ。」
「・・・わかった。」
怒ってはいないけど、ちょっと呆れ顔の紳助に、自分の方が折れる。岡前との約束を破ろうとしたのは自分だから、それは仕方ない。
「紳助、お風呂入ろう。」
「おまえ、そうやって誘えば俺が誤魔化されるとでも思ってんのか?」
「・・・ちょっとだけ。」
「俺はそんな単細胞じゃねぇぞ。」
「・・・。」
紳助が不遜な笑みを浮かべて、恵一のボタンに手を掛ける。
単細胞じゃないって言うわりには、しっかりこちらの誘いに乗ってきているではないかと抗議しようとした矢先、キスで口を塞がれてしまう。
抵抗しようとする力は瞬時に奪われてしまう。恋に溺れてしまった自分の負け。紳助には絶対に敵わない。
恵一は早々に観念して、紳助の腕の中に収まった。
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朝霧とおる