何をお土産に買って帰ろうか。何だったら喜ぶだろう。
散々悩み、岡前も巻き込んで、結局建築関係の本を買うことに決めた。
「これ、何ですか?」
「最新のトレンドとかが書いてあるみたいだね。資材とか様式とか。」
「そっか。これも買っていこうかな。」
「三島くんは英語読めるの?」
「たぶん。」
「それ、大丈夫?」
「本棚には英語で書いてあるやついっぱい入ってたから、たぶん読めるんだと思う。」
凄いな、くらいにしか思っていなくて、ちゃんと聞いたことがなかった。
ただ歩の話によると、大学時代の必修科目で英語でプレゼンテーションする授業があったと聞いたことがある。紳助が受講していたのは、まだ恵一が入学する前のことだから見たことはない。けれど成績が良かったと歩伝いに聞いていたから、おそらく喋ることもできるのだろう。
一緒に暮らしているというのに、案外確かめたりしないものだな、と少し反省する。もっと紳助ができること、興味のあることに食指を伸ばしてみればよかった。
「わぁ、これすごい。図書館? 美術館?」
「いろんな国の公共建築物みたいだね。そういう本の方が写真も多いし、楽しいんじゃない?」
「俺も楽しめるし、これも買っていこうかな。」
ファッション関連の雑誌も自分のためにいくつか手に取る。
喜んでくれるといいなと期待だけが膨らんでいく。贈り物を選ぶ時って、渡す前にあれこれと悩むのが楽しいのだと知った。紳助とはあまり贈り物をしあったりしない。普段は必要性を感じないからだ。
けれどこうやって離れてみると、異国の地で見たもの触れたものを彼のもとへ持ち帰りたくなる。感じた気持ちまでも見てほしくなるのだ。
「ケイ、香水つけてる?」
「つけてますよ。ほら、ダニエルがプレゼントしてくれたやつです。」
「この香り・・・」
「良い香りでしょ? 岡前さんもつけてみます?」
小瓶を取り出したところで、岡前が静止の合図を出してくる。その代わりに面白いものを見るような目でこちらを見てきた。何だろうと目で問いかけたが、首を横へ振ってはぐらかされてしまう。
「遠慮しとく。」
「そうですか?」
「せっかくいただいたものなんだから、自分で使いなさい。」
笑われたことが少々気にかかったものの、問い詰めるほどのことではない。
本を抱えてレジの前へ行き、会計を済ませて戻ると、岡前が書店の外で電話をしていた。漏れ聞こえてきた話の内容から、おそらく相手はブライダルの仕事をした相手モデルのマネージャー。
「ケイ。リリーが君とお食事でも、ってさ。もちろん俺やあちらのマネージャーも行くけどね。セッティングする?」
「はい。」
お互いスケジュールがぎっちりで、打ち上げをする余裕もなかった。帰国までの一週間は、日本から持ってきたオフショット撮影が控えていてゆっくりするヒマはないから、やるなら今日が最後のチャンスだろう。
良い仕事ができたし、せっかくなら他のスタッフも空いている人は呼びたい、と提案した。
「リリーは君と二人きりをご所望らしいよ。」
「そう、なんですか?」
「悪い意味で言った通りになったでしょ?」
「・・・すみません。でも俺は・・・」
「その気がないのはわかってる。他のスタッフも込みなら良いってことで返事したよ。二人が望んだとしても、マネージャーとしてはお断り願いたいところだね。君は大事な看板モデルだから、噂が立つだけでもこっちとしては痛いんだよ。日本から記者も何人か来てるみたいだから。あえて危ない橋を渡らせたりはしない。」
「はい・・・。」
「絶対二人きりにならないこと。」
「わかってます。」
「あと、君の場合、お酒を飲まないこと。飲めないことは言ってあるけど、それでも勧めてくる人はいると思うから、気を付けて。」
労をねぎらうための集いなのに、注意事項が多過ぎて純粋に楽しめそうにない。
「ねぇ、岡前さん。ダニエルを読んじゃだめ? オフショットにはならないかもしれないけど・・・」
「それは名案。大層な理由はいらないんじゃない? 帰国前に会いたいってこともあるでしょ?」
「はい。なんか、利用するみたいで悪いけど。」
「良い監視役にはなってくれるかな。」
「俺から連絡してみます。」
「連絡先交換したの?」
「ダニエルは良いでしょ?」
「リリーはダメだよ。」
「わかってます。」
二人で苦笑して、タクシーを拾う。その中で、早速ダニエルにコンタクトを取った。
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朝霧とおる