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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

あなたの香り10

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あなたの香り10

目の前で豪快にお酒を煽る後輩を見て、さぞかし恋人は心配しているだろうなと同情する。

歩とは約一ヶ月前にも飲んだが、彼の恋人は快く思っていないことだろう。送り出しているのは渋々で、歩のスマートフォンには頻繁に着信がある。

「恵一に言いました? 俺と会うって。」

「もちろん。会いたがってたよ。あいつ、戻ってきたら長い休みがあるんだ。会ってやってよ。」

「俺も会いたいです。しばらく会ってなかったし。恵一、寂しいんじゃないんですか? なんだかんだ、紳助さんにベッタリですもんね。」

「おまえから見ても、そう見えんだな。」

「紳助さんが卒業した後、学科内でちょっと噂になってましたもん。」

「噂?」

苦笑した歩が声のトーンを落として話してくる。

「なんで紳助さんと恵一がルームシェアしてるんだろう、って。」

学年も違う。学科も違う。仲が良いにしても学生時代だけならともかく、今現在もそれは続いている。

「この前、ゼミの飲み会あったでしょ?」

「あったな。」

「紳助さん来られなかったけど、その時もちょっと話題に出て、俺、お酒飲むに飲めなかったんですから。うっかり言ったら、紳助さんに絞められそうだし。」

「その通りだな。」

「否定してくださいよ。」

「黙ってりゃいいことだろ。」

「俺がウソつくの苦手だって知ってますよね? もう、すごいドキドキしてたんですから。」

「気にしすぎだっての。」

「皆が皆、紳助さんみたいな鋼のハートじゃないんですよ!」

歩の言い草に笑い飛ばしたものの、実のところ色々弊害は出てきている。

大人になればなるほど二人の同棲は周りから見て不自然なものとして映るだろう。親の小言は大した話ではないが、きっと恵一は違う。気にするだろうし、きっと彼の繊細なメンタルに傷を負わせるだろう。

「そうは言うけど、おまえのところはどうなの?」

「時々そのことで揉めるっていうか、落ち込むっていうか。紳助さんは親に言えます?」

「別にわざわざ言おうとは思わないな。バレたらその時だけど、もう子どもでもないんだし、縁切られたところで大した話じゃない。」

「割り切り良過ぎません?」

「俺は仕事ができて、隣りに恵一がいればそれでいい。それが最優先。」

お酒の入り混じった溜息をついて、歩がテーブルへ伏せる。

「欲張り過ぎなのかなぁ。」

「あれもこれもは無理だろ?」

「でも、どうにかならないかなって考えちゃうんです。」

「ならねぇよ。」

「ひどい・・・」

これが男女の話だったらスムーズに進むかというと、そういうわけでもない。それぞれが求めるタイミングや条件で、噛み合う時も合わない時もあるからだ。

考えても仕方がないことはある。全てはなるようにしかならない。

「ちゃんと親に納得してもらって、一緒に暮らしたい。もう隠したくなくて・・・」

「覚悟だけは立派だな。」

「賢介にもそう言われました。俺の考え方が間違ってるのかなぁ。でも悪いことしてるわけじゃないのに・・・」

悪いかどうかを決めるのは歩ではない。他人に認められたいということは、意にそぐわない判決も聞かなければいけないということだ。それが果たして自分たちの関係を維持することに必要なのかどうか、紳助にとって、その答えは否だった。

他人の評価など必要ない。恵一が自分を望む限りそばにいる。ただそれだけのことだ。

「でも紳助さんだって、恵一が同じことで悩んでたら、違うんじゃないんですか? 同じようにバッサリ切ります?」

お酒が回っているくせに、毎回痛いところはちゃんと突いてくる歩。一筋縄ではいかない後輩に無言を貫く。

「相手が恵一だと思って、愚痴聞いて下さいよぉ。」

「愚痴は聞いてるだろ? 生死を分けた相談じゃねぇんだから。」

「今度、恵一に会ったら、紳助さんにいじめられた、ってチクっちゃいますから。」

「おまえな・・・」

恵一を盾にされると痛い。何故か歩が相手だと、恵一は自分の味方をしてくれない。歩を庇う傾向にあるから、紳助が不利になる。

「恵一にこの事、話してもいいですか?」

この事というのは戯言の方ではなく、親へカムアウトする件だろう。

「今度会う時、話せば?」

「恵一の方が真剣に相談乗ってくれそうだから。」

「おまえ、俺も聞いてるだろ?」

「適当にね。」

「俺がいない時には話すなよ。」

「過保護。」

「気が付いたらドン底とか困るんだよ。」

「恵一も、もう大人ですよ。」

「そうじゃないから困ってる。」

本当は大人とか子どもとかは関係ないだろう。繊細で感受性が強いだけだ。年中刺激していたら、疲弊させてしまう。自分とのこと以外であまりその部分を作動させたくはない。

「でも、欲張りなのは、おまえの良いところなんじゃねぇの? 相手もそこに惚れてんだろうし。」

「そうだといいな。」

「そういうことにしとけ。」

「またテキトー!」

振り回されても好きでたまらない。歩の話を聞いている限り、彼の相手はそんな風に思っている気がした。現実主義者と若干世間ズレしつつも奔放で明るい歩。きっとお似合いなんだろう。

「捨てられないようにな。」

「紳助さんだって!」

確かにその通り。

歩と二人でバカ騒ぎをしながら、彼のパートナーからの帰ってこいコールがやってくるまで飲み明かした。















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