迷ったのは一瞬。見上げてくる視線に恋慕の色を感じて取って、己の勘を信じて突き進む。
恋に落ちるのも、成就するのも理屈じゃない。衝動的に掴んできた瀬戸の手に自分の手を重ね、彼の唇を奪うと、驚くほどしっくり馴染む。互いの熱に酩酊する感覚は決して幻ではないと思う。
突然、向けられる好意に気付く瞬間がある。直感も馬鹿にはできない。一旦、気持ちが透けて見えると、今まで視界に入らなかった些細なサインがそこかしこから目に飛び込んでくる。
「瀬戸」
呼ぶと瀬戸が真っすぐ見つめ返してくる。瀬戸が自身の気持ちに確信を持つまで待っていたら、きっと時間だけが過ぎていく。こういう事は先に察した方がリードするのが手っ取り早い。挫けることを恐れていては何も進まない。ようやく恋をする楽しさに目覚めた気がして、臆病になっていた自分が微笑ましく思える。
瀬戸の潤む瞳には坂口の姿がしっかり映り込んでいる。キスをするたびに頬の赤みが増していくので、困った顔すら誘っているかのようだ。必死な様子で受け止めようとしている瀬戸には悪いけれど、その仕草が可愛くて仕方がない。
いつからか、はっきりとした記憶はない。しかし何かを訴えるような瀬戸の眼差しには憶えがある。意識されていることは強く感じていて、それは苦手な証だとばかり思っていた。
「瀬戸、触っていい?」
聞く前から手を差し込んでいるけれど、一応お伺いは立てる。彼の身体が本気で拒まないなら、口先だけで抵抗しても進む気でいた。いくら言葉で諭しても限界はある。触れ合って初めてわかることもあると信じてる。こんな強請るような眼差しを寄越しておいて、彼が本気で拒むとは思えない。
「坂口さん、待つ、って・・・。」
「瀬戸が好き、って言葉にしてくれるのは待つよ。」
しっかり形を成し、布を押し上げて主張する瀬戸に触れる。瀬戸の手が坂口を阻むように伸びてきたけれど、遮る力は決して強くない。ただ反射的に手が動いただけのようだ。
「ホントにイヤ?」
「怖い、です・・・。」
「じゃあ、試してみよう?」
「でも・・・。」
焦るような声とは裏腹に、期待に満ちた目をしている。本人はきっと無自覚だろう。瀬戸が何に怯えているか、明かしてくれなければ本当の事はわからない。
「今だけでいいから、俺の言うこと信じてみて。」
「え・・・?」
「瀬戸の目は好きだって言ってる。」
本当は自分に言い聞かせている。己の願望が見せる幻ではないことを祈っているのだ。
「そんな気してきた?」
「もう、わかんないです・・・。」
少し投げやりな台詞に坂口は小さく笑う。
瀬戸が唖然とした顔をして、次の瞬間には泣きそうに歪んだ。観念したのか、決意を固めたのかは定かでない。しかし坂口の服を掴んできた瀬戸の手は、震えてはいなかった。
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朝霧とおる