坂口と黒川の放った険悪な雰囲気に呑まれて、一言も発することができないまま、坂口の家に辿り着く。瀬戸の視線に気付いているはずの坂口が、一向にこちらを見てくれない。その事に不安は増して、思わず坂口の服を掴む。
「坂口、さん・・・。」
「ッ・・・。」
険しい目付きで前方だけを凝視していた坂口が、突然我に返ったように瀬戸を振り返る。
「瀬戸」
「・・・。」
「ゴメン。」
「いえ・・・。」
気まずくて不安だ。坂口がどこまで勘付いたかもわからなくて、気持ちをどこへ寄せたらいいのかわからない。けれど掴んで離さない手の強さも、広い背中も頼もしくて、黒川との距離を強制的に断ってくれた強引さも嫌ではなかった。
「とりあえず、上がって。」
ドアを開いて部屋へ入るよう促される。黙って従い、坂口が背後でドアの鍵をロックした音を聞くと、急に緊張し始める。無意識に服の裾を握り締めて玄関で立っていると、坂口の手が瀬戸の肩に乗せられる。
「上がるの、イヤ?」
「あ・・・いえ・・・。」
前に進むことも、過去を振り返ることも怖い。しかし坂口の目は、瀬戸の不安をすべて見透かすような視線だった。
スニーカーを脱ぐと、靴下までもが雨を吸っていることに気付く。そのまま上がり込むことは躊躇われて、モタモタと靴下を脱いで床に素足を着地させた。
「洗うよ、ソレ。」
「え・・・。」
「ズボンも濡れちゃって、冷たいだろ。とりあえず風呂入っちゃって。」
「・・・。」
「瀬戸に話したいことがあるから、泊まってほしい。はぐらかされたくない。ちゃんと聞いてほしいんだ。」
坂口の考えていることがわからなくて、ただ不安だった。黒川とのことを真っ先に問いただされると思っていたから、そうならなかった事に多少安堵の気持ちが湧いてくる。
「泊まってくれる?」
「・・・はい。」
頷いた瀬戸に坂口が微笑んで背を押してくる。
「冷えちゃうから、早く。」
「でも、坂口さんも・・・。」
二人で傘に収まっていたから、坂口も服のあちこちが濡れている。先輩を差し置いてシャワーを借りるのは躊躇われて進めずにいると、坂口が笑って尋ねてくる。
「一緒に入っていいってこと?」
「ッ・・・。」
坂口の言葉に思わず赤面して俯く。すると、早く入っておいでと念を押され、バスルームへ一人送り出された。
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朝霧とおる