避けられていたような気がしていたけれど、気の所為だったみたい。打ち合わせでつい熱の入る話し方は健在だったし、坂口の目を追い掛けるまでもなく、資料から顔を上げるたびに目が合った。
その事にホッとしている自分が不思議で。見捨てられていないという事実は瀬戸を仕事に集中させてくれる。優しい先輩に嫌われたくないという心が自分にあった事にも驚きだったけれど、坂口が微笑んで頷いてくる様子を見ていたら、悶々とした気持ちは自然と消滅していった。
「瀬戸、その・・・丸投げしてゴメンな。川辺に聞いたんだって?」
「いえ、大丈夫です。」
いつもなら気を遣わせることに申し訳なさが先に立つ。しかし今日は心配されていたと知って嬉しくなった。
「上げてくれるのも早かったし、ちゃんと出来てたし、ホント助かったよ。」
「・・・。」
褒められると、何て言葉を返していいのかわからなくなる。人の良いところを見つけるのが、坂口は得意だ。先輩に対してこういう言い方がどうかと思うけど、彼を進捗係に就かせた人は見る目がある。そして自分の特性を活かして皆をまとめることに徹することができる坂口の熱心さも尊敬する。
「断じてセクハラじゃないと思って聞いてほしいんだけど・・・。」
「はい。」
坂口にセクハラをされた憶えはないし、彼がそんな無神経な事をするとは思えなくて、疑問に思って瀬戸は首を傾げる。
「この商品、瀬戸は使ったことある?」
「いえ・・・。」
「他のスタッフにも言ってることなんだけどさ、自分が関わる商品は、手に取って実際使ってみてほしい。作ってる人間が知らないっていうのは問題あるから。」
「そう、ですよね。」
「洗剤とかバス用品と違って、どうやって使うかまでは問わないけど。」
「・・・はい。」
企画部にはサンプル棚があるけれど、この手の物は持ち去るのが躊躇われる。しかも他の商品は小包装の試供品が置いてあるが、ローションを探したら大きなボトルしかなかった。デスクに持っていくことすら自分は引け目を感じてしまい、ついでに言えば使う相手がいるわけでもない。
「宇津井みたいに嬉々として数本持って帰るやつもいるけどさ。瀬戸にそれを求めてるわけじゃないから。だから・・・これ。はい。」
「・・・ありがとうございます。」
差し出されたビニル袋の中身はローションだった。坂口は気を使って、持ってきてくれたらしい。使ってみてと念を押されても抵抗があったから、正直助かった。モニターへ映し出して見る分には戸惑いはないのに、いざ手にすると実感を伴うから恥ずかしい気持ちを完全に封じることはできないけれど。
瀬戸は坂口の気遣いを有難く受け取って、こっそり安堵の溜息をついた。
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朝霧とおる