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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

この雨が通り過ぎるまでに25

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この雨が通り過ぎるまでに25

そわそわと落ち着かない気分で瀬戸がエレベーターホールへ向かうのを見送っていると、肩に重みを感じる。宇津井の手が乗せられていた。

「へぇ。坂口は瀬戸にご執心なわけか・・・。」

「ッ・・・別にそういうんじゃない!」

「全力で否定するってことは、肯定してんのと同じだな。」

「だから違うって。凄い濡れてたし、大丈夫かな、って。」

「やらかした俺すら、そこまで心配しねぇぞ。」

「しろよ。」

嫉妬していたなんて口が裂けても言えない。しかし感情を堪える一方で、顔が熱くなっていくのを止められなかった。始まってもいない恋。誰かにバレて強制的に終止符を打つなんてことにはなりたくない。

「ホントに違うの?」

「違う。」

人を傷付ける嘘もあるけど、自分を傷付ける嘘もある。ただ好きなだけで、どうにかなろうなんて高望みはしていないのに。それでも本当の事を言えないつらさ。こんなに自分を打ちのめすものだと思っていなくて。言えない片思いを舐めていた気がする。

「ほら、三時までに営業先行くんだろ?」

「あ、そうだった。」

「人の恋愛に首突っ込むな。」

「楽しいじゃん。」

「こっちは真剣なんだっつうの。」

楽しかったのは最初の内だけだ。近付くだけでドキドキして、目が合った時は天にも昇る気持ちで。

今は苦しい。自分が何をするかわからなくて。落としどころのない苦しさが胸で燻っては、逃れようのない恋しさだけは募る。

「言った方がラクになるよ?」

「宇津井だけには絶対言わない。」

「何で?」

「口軽そうだから。」

「ひでぇ。」

まだご飯を食べに行く約束は有効だろうか。誘っても断られることが怖くて、瀬戸に言い出せない。夜じゃなくて、昼休みを合わせるくらいならハードルが低いだろうか。

自分を落ち着かせるために距離を取った。坂口の勝手な都合に瀬戸が異変を感じていないといい。結局離れた途端、瀬戸に平然と近付く宇津井へ嫉妬して、瀬戸の隣りへ立ちたくなってしまった。
せめて叶わない想いなら、一番親しい人間でいたいという欲求は留まることなく湧いてくる。

「ダメだ・・・。」

「は?」

「あー・・・ちょっと、スケジュール詰め込み過ぎて・・・。」

うっかり心の声が漏れ出てしまって、慌てて宇津井に取り繕う。言葉通り、本当にダメだ。このままだと焦って仕事にまで影響しかねない。それくらい自分は今、平静さを欠いている気がする。

「坂口さ、なんで瀬戸にアダルト界隈の話してやらなかったんだよ。詳しくないから困った、って言ってたぞ。」

「ほら、川辺いるし。ちょっとあの日、バタバタだったんだよ。」

「セクハラすんなら平等にしろよ。新人の頃の川辺は、完全に餌食だっただろ。」

「そんな事してない。仕事に必要な知識だから教えたんであって・・・。」

「まぁ、瀬戸って繊細そうだから、ちょっとその手の話しずらいのはわかるけど。」

「・・・確かに一理あるけど、別に深い意味はないよ。」

「あ、そう。」

避けて通った道。思った以上に話が筒抜けで焦る。一体、宇津井はどこまで勘付いているのやら。宇津井の横顔を盗み見る勇気はなくて、傘を差して、ただ前だけを見て歩く。浅い水たまりを踏んで、予想通りスーツの裾を濡らして染みを作った。









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