一つひとつ反応を確かめるように触れてくる大友の手に、ゆっくりと息が上がっていく。掻き抱きたい衝動を堪えたのは、それが何の解決にもならないと思ったから。抱いて心を向けてくれるなら、そんな簡単なことはないけれど。飯塚が望むように大友が簡単に転がってくるなら、こんな熱心に世話を焼く必要はない。
「抱いてくれたっていいじゃん。ケチ。」
曝け出した肌を摺り寄せて、尖らせた口で胸元に吸い付いてくる。一瞬甘い痛みが走った飯塚の肌には、赤い痕が残った。
「ホントに俺でいい?」
「飯塚がいい。」
今、大友から貰うことのできる言葉で最高位の言葉だろうから、これでよしとするしかない。
「俺・・・」
「うん?」
「結構、飯塚のこと好きだよ。」
見放されたくない大友の心が透けて見えるようで、思わず自制心が緩んで抱き締める。
「言葉で、ちゃんとくれるから。それに・・・」
「うん。」
「飯塚の目・・・嘘ついてない、ってわかるから・・・。」
どんなに想い合っている二人だって、言葉にすることは大事だ。わかっているつもりですれ違うことはたくさんある。自分が大切にしてきたことを好意的に受け止めてくれるのは嬉しい。真剣な気持ちが伝わっているとわかっただけでも収穫だ。
「今度こそ・・・ちゃんと恋愛したい。」
「うん。」
「飯塚となら、できそうな気がする。」
「そっか。」
「だから・・・」
大友が一度ゆっくり目を閉じた後、何かを決心したように飯塚を見上げてくる。
「ちゃんと、別れてくる。」
「・・・。」
「さよなら、してくる。」
まだ心に元恋人の影を残したまま、そんな事が大友にできるのかと不安になる。行かないでと言った自分の言葉に一度は頷いてくれたのに、大友の眼差しを見ると、その決心を変えることは難しそうだった。
丸め込まれて、また大友が泣く羽目になるんじゃないかと気が気ではない。
大友が抱き付いたまま深呼吸をして、彼の声が急に涙を含んだ弱々しい声音に変わる。
「全部、終わったら・・・よく頑張った、って褒めて。」
涙がこぼれてしまう前に身体の奥から絞り出すような声で懇願してくる。言い終えた瞬間に、大友は飯塚の胸をこぼれた涙で濡らした。
本当にそんな事ができるのか問いただすのは野暮な気がした。大友は固く決心しているようだから、彼がそうしたいと言うなら、黙って送り出して信じて待つより他ないだろう。
「真っすぐ帰ってきて。」
「・・・うん。」
「寄り道はなしね。」
「うん。」
本音を言えば、行かせたくはない。大友の心が揺れ動く心配以上に、彼が再び深く傷を負ってくるように思えるから。せっかく飯塚の存在に絆され始めたのだから、大友の中で徐々に元カレの存在が薄くなっていくのを待ってもいいわけだ。あえて嵐を呼ぶ必要があるだろうか。
「変な顔してる。」
湧き上がってくる涙が落ち着いたのか、眉を寄せて怪訝な顔をする飯塚を、小さく笑いながら指摘してくる。
「・・・ちょっとだけ、心配だから。」
「信用ないな、俺。まぁ、当たり前だけど・・・。」
「そうじゃなくて・・・」
「じゃあ、何?」
好きな人が泣いてばかりじゃ、見ているこちらもやるせない。自分の器に満たした優しさだけで事足りるのかも心配だ。
「あんまり泣くのは見たくない。傷付いてほしくない。」
「飯塚って・・・俺のこと、凄い好きだよな。」
「好きだよ。」
「うん。だから・・・ちゃんとケジメつけたい。」
「・・・うん。」
「俺ばっかり大切にされたら、フェアじゃない。」
一人で頑張り過ぎないでほしいけど、誠実であろうとする大友だから、自分は惹かれるんだろう。
「いってらっしゃい。」
「・・・うん。いってくる。」
泣き腫らした上に寝不足も祟って、大友の顔はお世辞にも送り出すに相応しい顔とは言えない。でも彼が行きたいと言うなら、ちゃんと送り出してあげよう。本当は尾行して見届けたい気分だけど、大友が全てを振り切るように笑ったので、腕の力を抜いて解放する気になった。
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朝霧とおる