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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

紫陽花20

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紫陽花20

傘が時折ぶつかり合う距離で歩くのは、久々に思える。雨音が程良く二人の話し声を掻き消してくれるので、雅人はいつもより少しだけ大胆になっていた。

「なぁ、今藤。」

「ん?」

「先週の金曜……俺、なんか言ってた?」

ようやく自分からくだけて聞けるくらいには気持ちが落ち着いていた。今藤と過ごす時間が解決してくれるという絶対的な安心感を、今更ながら噛み締めている。

「さぁ、別に。気分屋の酔っ払い。」

「ホントかよ。怖いんだけど。」

そこそこ酒には強いはずなのだ。しかし記憶が曖昧なので心許なく、どうもすっきりしない。

目線が少し高い今藤の表情は、雅人の差す傘に阻まれて、ほとんど窺い知ることができない。口元だけ薄っすら笑んだ今藤に、雅人の胸中は複雑だ。恐らく彼の優しさで、雅人が起こした諸々の失態を本人にすら告げないまま葬り去ってくれるつもりなのだろう。

唐突に思い出した記憶の断片。白い紫陽花をこの目に拝めば、思い出すことができる気がして、雅人の気持ちは急いていた。

桜の花見に訪れた時は大層盛況だったのに、雨の今日は静まりかえっている。人の気配もなく、広い公園内に足を踏み入れても、誰ともすれ違うことがない。

「ああ、あの辺かな。甲斐が待ち伏せしてたとこ。」

「待ち伏せ?」

雅人の疑問には答えがなく、見上げると視線で紫陽花の花壇を示される。立派に萼(がく)を開いて雨を浴びていたが、雅人が求めている白いものは見当たらない。

「ないだろ?」

「……。」

どこからどう見ても青い紫陽花に雅人はがっくりと肩を落とす。やはり酔った頭が見せた幻だったのかもしれない。近くを見渡しても同じ光景が連なっているだけで、今藤が送ってくれた写真の紫陽花に似た色さえなかった。

「で、来たけど。花見できる状態でもないぞ?」

ベンチはことごとく濡れているし、確かに乾杯できる雰囲気ではない。公園に来る途中、念のためコンビニでビール缶を調達してきたが、意気揚々と缶を打ち鳴らすのも、随分逸脱した行為に思えた。雨足は依然弱く、開き直れるほどの悪天候でもない。しかし用意したのだからもったいないと思い直す。

「いいじゃん。せっかく買ってきたんだし、飲もう。」

雅人はビニル袋からビール缶を取り出し、今藤へ押し付ける。プルトップを開ける音は景色に全く合わなくて、なんだか笑えた。

「今週もお疲れ。」

「ホント物好きだな。ヤケクソだろ。」

「今藤と付き合ってる時点で、俺は相当変わってるから、今更だし。」

「へぇ。」

ひと口含むと、喉の奥でパチパチと炭酸が弾ける。冷たいアルコールに晒されて、一瞬だけ爽やかさが通り、胃に落ちていった。

傘を差して立ちながら花壇の前で飲む自分たちは、はたから見たら非常に奇妙だろう。しかし幸い咎めるオーディエンスもいないので、特殊さにむしろ楽しくなってきた。

「なぁ、今藤。」

「これ飲んだら帰るぞ。」

「ここまで来たんだし、ちょっと周るくらい良いだろ?」

「花見すんのか?」

「探せば白いやつ、あるかもしんないじゃん。」

「まだこだわってんのかよ……。」

今藤が完全に呆れているのは声音でわかる。けれど否を言わずに苦笑し、好きにしろと態度で示してくれるから、内心では彼の懐に飛びついている。雅人なりの数少ない甘え方だ。

飲み干す前に雅人から歩き出し、その後をゆっくりと今藤がついてくる。

「あ。あっちにブランコある。」

「……。」

駆け寄ってみるものの、立って乗るにしても傘が邪魔で上手くいかない。

「甲斐、危ないだろ。」

「傘持ったままじゃムリっぽい。」

「当たり前だ。」

おどけて笑い返すと、今藤が思いのほか神妙な顔つきで雅人を見ている。

「何?」

「いや……もう酔っ払ってんのかと思って。」

「こんくらいじゃ酔わないし。」

「どうだか。」

何か変な事をしてしまっただろうかと振り返っても、心当たりはない。あるとしたら、先週のことだけだ。

「甲斐」

「ん?」

「飲み終わったら帰るぞ。」

二度も同じ催促を受けると、さすがに強くは出られない。強引にブランコへ足を掛けようとして、傘に溜まった雨が滑り落ち、雅人のシャツやズボンを濡らしていた。寒くはないが、肌にべっとりと纏わりつく布が少し気持ち悪い。

「まだ全然探してないじゃん。」

口を小さく尖らせて抗議しつつも、雅人は今藤のあとをついて歩く。

「俺が送ったやつで満足しろ。」

命令するような言葉のわりに、声音は優しく落ち着いている。違和感に内心首を傾げたものの、この男のことだから、雅人を思ってのことだと確信できてしまうのだ。

抜け落ちてしまった記憶。その中で気遣いをされるような事をしでかしているのかもしれない。

「今藤」

「何だ?」

もう長く深い付き合いだからわかる。

「やっぱ、何でもない!」

少し緊張した今藤の声音に彼なりの思い遣りを感じ取って、雅人は追及するのをやめた。









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数話で終えるはずが、いつの間にか20話に。。。
皆さま、いつもの如く、ご覧いただきまして、ありがとうございます!!

ダラダラ感と梅雨のじとじと感がマッチしていればいいのですが。。。
甲斐に関しては晴れ男なイメージがあるのですが、今回は落ち込んでもらいました。
虐めてゴメンね、甲斐。。。

さてさて。
今藤と甲斐でリハビリをさせてもらったので、明日から新しいお話をスタートさせようかな、と思います。

デザイン事務所の社長×中途で入ってきたデザイナー

簡潔過ぎる、ヒッソリした予告で申し訳ありません。。。
引き続き、お付き合いいただけたら大変嬉しいです!!

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