出迎えてくれない理由は概ね予想がつく。電話で素直だったから、居た堪れなくなったのだろう。
甲斐がベッドに横たわって視線だけ進の方へ投げてきたが、案の定、不機嫌そうではなかった。
「……おかえり。」
「ただいま。」
部屋に明かりがついている事、飽きるほど待ってくれる誰かがいる事、そのどちらも進を満たしてくれる。甲斐の存在は代え難い。
「悪い。待たせた。」
気温より湿度が気になるこの季節は、一枚一枚服を脱いでいくだけで解放感がある。
「早く風呂入ってきて。」
「誘ってる?」
「……。」
強請るのはやはり恥ずかしいのか、甲斐がすぐ壁の方を向いてしまう。けれど貴重な素直さに進も下手な応酬はせず、甲斐に気付かれないよう口角だけ上げて笑った。
ネクタイを緩めてベッドへ腰掛けると、甲斐が背を向けたまま壁側へ逃げていく。逃げられると咄嗟に捕らえたくなるが、そこは堪えて甲斐の好きにさせた。
「酒の臭いしない……。」
「飲んでないからな。」
恋人が部屋で待ちくたびれているというのに、そんな無粋なことはしない。酒は丁重に断って、どうにか凌いだのだ。
「俺のこと、優先し過ぎ……。」
耳や首元まで赤くしながら抗議されても、説得力がない。隠し事が下手な恋人は、飲まずに帰還した進の誠意を喜んでくれているようだった。
「一緒に入る?」
「ヤダ。一人で入ってこいよ。」
「かーい。」
「風呂でしたくない。」
「残念。」
苦笑して立ち上がると、進の様子を伺うように甲斐が振り返ってくる。
「なぁ。」
「ん?」
「ゴメン……。」
本当は謝られる事なんか何もない。謝って甲斐の気が済むのならと思っていたが、このまま謝罪を受け入れ続けていると落ち込み具合は加速しそうだ。
「甲斐、俺は気にしてない。」
「……うん。でも、ゴメン。」
両親と揉めたらしいことは薄っすらとしか聞いていない。しかし甲斐が傷付いているところを見る限り、話が拗れているのは確信している。
「甲斐が悪いわけじゃない。」
「でも……。」
「上手く事が進んだとして、誰も傷付けないのは無理だろ。手離しに喜んでもらえるわけじゃない。」
一度洗面所に行きかけた身体を戻して、甲斐を押し倒して抱き締める。シャワーを浴びるつもりだったが、これ以上放っておくのが心配になって思い直す。
「甲斐。いい?」
「ダメって言ったってするだろ……。」
「そうだな。」
奪いに行くより先に甲斐の唇が迫ってくる。首に巻き付いた甲斐の手は強引で、進と甲斐の身体はあっという間にベッドへ沈み込む。
肌に纏わりつく汗とシャツが気になったのは初めのうちだけ。キスが深くなるうちに、すっかりそんな事は忘れ去っていた。
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朝霧とおる