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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

紫陽花10

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紫陽花10

部屋に行きたいと可愛いことを言ってくれるものだから、あえて日中に連絡を取らなかった。思い切り恋い焦がれてくれればいい。好きだから意地悪したくなる。幼少期のような思考回路に自分で呆れながらもほくそ笑む。

目を離した隙に、また彼が傷付く事件が起きなければいいが、駆けていけない分、今夜甘やかすしかない。言葉だけでは支えにならなくても、どれだけ愛されているか、甲斐はもう少し思い知るべきだ。

週の半ばに入って、北海道の天気は暗転した。降り続く雨が湿気を運んできて身体を重くする。天気予報では東京にも雨マークがついていたから、甲斐もスッキリしない一日を過ごしことだろう。
一日のほとんどを座学に費やしていたため、肩周りが固くなっている。シャワーの湯で充分温めてから部屋で一息つくと、時計の針は十一時を回っていた。

携帯電話に着信の気配はない。付き合う前は連絡を寄越すのはいつも甲斐だったが、付き合ってからは進がその役割を担っている。待ちぼうけていることを知られたくないという甲斐の強がりだ。

微笑ましい恋人を焦らしたい時は待たせるだけ待たせる。その後の噛み付きようが楽しくて癖になってしまう。甲斐からしてみればハラハラしながら待っているわけだから迷惑な話だろう。

ペットボトルの麦茶で水分補給しながら、携帯電話を片手に取り、甲斐の名前を画面に呼び出す。すると見事なワンコールで応答があったので、笑いを飲み込むのに苦労した。

「お疲れ。寝るとこだった?」

『いや、まだ……』

歯切れの悪い声に首を傾げる。そしてどうやら彼が外を歩いているらしいことを聞こえてくる音で察した。こんな遅くまで残業していたのだろうか。疲れ切った声が少し心配だったが、どう問うかも迷う。

「残業?」

『ううん。酒井とちょっと飲んで……』

「今、どこだ?」

『家……おまえんち、行こうかなって……』

「ああ。好きに使えよ。それと、早く寝ろ。」

『うん……。』

どちらが飲みに誘ったにしても、心穏やかではいられない。甲斐が陽気なら進の嫉妬だけで済む話だが、ふわふわと虚ろな声がこちらの心配を煽る。

『俺さ、弱くなった……』

「弱くなった?」

『前は、毎日会えなくても平気だったのに。むしろ避けたこともあるし……』

「それは付き合う前の話だろ?」

『……うん。そう、かも……。』

先日の金曜日ほど飲み潰れてはいないが、堂々と弱音を吐くくらいには、しっかり酔っている。

「酒井と二人で飲んだのか?」

『うん。子どもは可愛いけど、仕事遅いから喧嘩も増えたって愚痴ってた。』

家族へのカムアウトに、年齢的にタイムリーな子どもの話。本人に自覚はないだろうけど、過敏になっている部分を突かれて気が滅入っている可能性がある。

「甲斐は?」

『ん?』

「子ども、欲しくなった?」

いつか吐き出させてやらないと、自分たちを裂く要因になりかねない。手放したくないけれど、彼が少しでも子どものいる未来を望むなら、見過ごすわけにはいかなかった。

『今藤がいればいい。』

息を呑んで甲斐の言葉を聞き、完全には拭い去れていなかった棘が緩んで落ちていく。怯えがなかったと言えば嘘になる。進も怖かった。だから家族のことも深入りする勇気が持てないまま、あの金曜日を迎えてしまったのだ。

『離さないって言うくせに、いつもいないじゃん。今だって……』

「甲斐」

『ウソつき。キライ。』

恋い焦がれた矢に撃ち落とされる。不貞腐れたような口調も相まって、抱き締めたい気持ちに駆られた。いつも甘えてくれないからこそ、今放たれる威力は凄まじい。

「甲斐、帰るぞ。ほら、歩け。」

道中でポツンと立ち尽くしているのは電話越しの気配から明らかだった。足が地面を蹴って生まれるはずの振動が伝わってこない。

『いないのに、帰りたくない。』

「だから飲んできたのか?」

『ん……。』

「ホント、バカだな。余計帰りたくなくなるだろ。」

『バカって言う方がバカ!』

金曜日の一件で一人酒は反省したはずだが、都合の悪い事は早々に忘れるのが人間だ。そしてまた同じ負のループに陥る。

「家までどれくらいだ?」

『あと、ちょっと。』

ゴソゴソと電話口が騒ついた後、キーチェーンが打ち鳴る音が聴こえてくる。

『もう、切る。』

「寝るまで切らなくてもいいぞ?」

甲斐を気遣ってというより、心配が膨らんだ上での申し出だったが、すぐに否を告げてくる。

『風呂で水没させるのイヤだし。』

「平気か?」

『……うん。』

白黒付けることだけが正解ではない。どちらにも振り切れない時間を丁寧に過ごす事も大事だろう。先急いで後悔しては意味がない。

『金曜日……』

「ああ。」

『絶対、迎えに来いよ。』

「もちろん。」

偉そうな言い草を自分でも恥ずかしいと思う理性があったのだろう。進が返事をし終えるか否かというタイミングで、一方的に通話が切れる。掛け直して、せめて無事部屋に辿り着くまでは様子を聞き届けたいと思ったが、過保護な自分に苦笑して思いとどまった。








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