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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

二人だけの慰労会7

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二人だけの慰労会7

身を寄せ合って湯に浸かっていても、疲れの所為か、穏やかに流れる空気の所為か、即物的な行為に雪崩込まない不思議さを思う。外気は肌を刺すように冷たく、浸かっている湯の温かさに、二人で何度も安堵の溜息をついた。

「結局、終わんなかったんだよなぁ・・・。」

「何が?」

「論文。」

「え? また学会あんの?」

「学会は夏な。」

今藤の言葉に一瞬焦ったのは、また会えない日が続く憂鬱さを思ってのことだった。しかしすぐに否定されて雅人は首を傾げる。

「別に論文は学会合わせで書くもんじゃないから。単純に俺が年末目標でやってただけ。早く自分の研究室欲しいしさ。」

「そうか・・・。」

目標があって凄いな、と他人事のように頷く。しかし仕事に対して明確な目標がない自分に、僅かながら焦りも感じる。今藤は同期だけど皆の先を行く感じ。置いてきぼりを食らっているような寂しさがある。

「なんかさぁ・・・俺、何目指して頑張ってんのか、わかんないなぁ・・・。」

「目の前のことに必死な時期もあるし、こうなりたいって目標が出来る時もあるし。人それぞれだろ。」

「どっちも違う気がする・・・。」

「人と比べんな。持ってるもん違うんだから、そもそも出来る事も違うだろ。」

ぶくぶくと湯の中に沈み込んで、向上心の塊のような恋人に羨ましさを抱く。

それなりに楽しく我武者羅にやってきたけど、慣れが来て停滞している部分も増えている。今の自分はどう考えても必死さが足りない。

「結構、バタバタ走り回ってんじゃん、おまえ。」

「・・・そうかなぁ。」

「忙しくても過ぎればケロっと忘れるから、物足りないような気がすんだろ。いろんなもんに首突っ込み過ぎて、年中自滅してんじゃん。」

あんまりな言われように頭を抱えたくなる。今藤にどういう奴だと思われているんだろう。しかし今藤に指摘され、微かな希望を持って、今年一年の自分を振り返る。

「頑張ってるだろ。甲斐のこと悪く言う話、別に聞かないけど?」

「褒められると逆に不安になる。」

「面倒臭いな、おまえ。」

鼻で笑いながら顔を近付けてきて、今藤の唇が一瞬ふわりと触れて、離れていく。

大丈夫だよ、と宥めるようなキス。

好きだ。今藤の顔をまじまじ見つめて、繰り返し感じるこのシンプルな感情を噛み締める。

「なぁ。」

「ん?」

「俺の・・・どこが好き?」

見た目のスペック以上に魅力的なものをたくさん持つ今藤を、雅人が好きになるのは至極当然に思える。しかし、そんな彼に好かれるだけの魅力が自分にあるとは到底思えないのだ。

二十代の頃は雅人の見た目で吸い寄せられてきた人間が少なからずいたけれど、今、自分の周りにはそういう人間は残っていない。結局、心に通じるものがなければ、いずれ人は離れていく。それをここ最近痛感することは多い。

だから努力をし続けようと奮起して、自分なりに頑張ってきたけれど。そのことに思いを馳せても、今藤に好かれるだけの自分かと不安が胸を過る。

「顔。」

「・・・え?」

「真剣な顔も、焦った顔も、困ってる顔も、悔しそうな顔も。あと、そうだな・・・泣いてよがってる顔も好きかな。」

「・・・最後のは余計だろ。」

横で笑う今藤に拳をお見舞いするが、水の抵抗を受けて、雅人の拳はさほど威力を発揮しなかった。

「お調子者で、おっちょこちょいで、騒がしいけど・・・いつも一生懸命で、危うくて、目が離せない。」

「・・・。」

十年想ったと今藤は言っていたっけ。どれだけ見てくれていたのか。ずっと近くでその距離を誤ることのないようにと苦心したに違いないのだ。雅人も二年近く報われない想いと闘った。だから今藤が守ってくれた関係の有難さを考えずにはいられないのだ。

甘えている。甘やかされている。雅人のことをいつも優先してくれているのだと、もう自分は気付いている。

「いつの間にか、俺のこと見ろよって思うようになった。もうそう思い始めたら、よそ見もできなくなったんだよ。」

「・・・もう、いいよ。わかった。」

自分から聞いておいてなんだけど、ジッと見つめられながら言われると恥ずかしい。

想って、想われて、甘過ぎるこの時間に頭が沸きそうになる。

「甲斐がドジじゃなかったら、ここにも一緒に来られなかった。考えただけでゾッとする。」

「ッ・・・。」

キスが優しい。穏やかで、獲って食ってやろうという勢いは感じない。けれど今藤の熱情は確かに感じて、嬉しさに感極まって、無性に泣きたくなった。

「甲斐。逃げたら、追っ掛けるからな。」

「・・・逃げないし。」

逃げて堪るものか。心底好きだと思う奴から大切にされる心地良さを、もう自分は知ってしまった。今さら手放せるわけがない。

ちゃぷんと少し大きな音がして、次の瞬間には抱き締められる。熱い唇を受け止めて、雅人は覆い被さってきた今藤を抱き締め返した。









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一週間、今藤と甲斐にお付き合いいただきまして、ありがとうございました!
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