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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

西からの便り1

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西からの便り1

実りある季節が西にもやってきたらしい。痩せていた土地が豊かな土壌へと変わり、ソウからの文は民の喜びと感謝の言葉で満ち溢れていた。

フェイは世羅から与えられた書斎で一人、別の文をしたため始める。薬師のㇽウイに西の様子を伝えるためだ。彼はいつも民が口にするものに不足はないかと、心を配っている。冬場の備えとなる保存食を作るため、今なお彼は試行錯誤を重ねていた。そんなㇽウイに吉報を、とフェイは思ったのだ。

フェイは小振りな指先を使って、甘い菓子を口へと運ぶ。ムギの粉を生地に仕立て、植物から絞った油で揚げた菓子。最後に絡めた蜜がフェイの舌を甘さでくすぐり、頬の中を優しさでいっぱいにする。

手についてしまった蜜を綺麗に舐めとって幸福感に浸っていると窓の方から視線を感じる。

「キィも食べますか?」

尋ねるとキィが嬉しそうに肩へ舞い降りてきて、皿に盛り付けてある菓子をジッと見つめる。しかし彼の前に差し出してみても一向に食べようとはしない。

「確かに・・・キィ向きの菓子ではないですよね。」

フェイが小さく笑って呟くと、肯定するように温かい羽で頬擦りをしてくる。代わりにムギの実をキィに差し出すと、待ち構えていたようにせっせと啄み始めた。

「西で取れたムギを、ソウ様が送ってくださるそうですよ。キィのためにも包みをこしらえてくださったとか。」

ソウからの文をキィへ向けて語りかけると、キィが満足げな顔で胸を張る。キィは頻繁に人の話を理解したような態度を取るから侮れない。あらゆる事象が、それこそ世羅との事も筒抜けなのではないかと少しばかり心配だ。キィが世羅へと向ける眼光は依然鋭く、彼らを同じ部屋で会わせてしまうと、空気が張り詰めて緊迫した。

「明日、ㇽウイのところへ届けてほしいのです。」

ㇽウイへしたためた文を小さく筒状に丸めて、細い糸で幾重にも結わえていく。キィが飛ぶ時は解けることがないように。そして薬師の手に渡った時には、ある一本を引っ張るとあっという間に解けるように巧妙な結び目を施す。薬師だけに伝わるささやかな秘儀だ。

近頃、薬師の長ライの体調が芳しくない。他の薬師たちとの連絡手段はもっぱら国鳥頼みになるので、キィたちは飛び疲れている。彼の様子を窺うように目を合わせると、舐めてもらっては困るとでも言うように、なかなか勇ましい視線にぶつかる。

労うように彼の羽を撫でながら、のんびり時を過ごしていると、廊下の方から少し騒々しく足音が迫って来る。キィの眼光がギラリと光り、彼の首が背後へ向けて回る。鬱陶しいものを見るかのような眼差しに、誰がやってきたのか、その姿を見るまでもなくフェイにもわかった。

「フェイ、西からの文は・・・。あぁ・・・キィもいたのか。」

形ばかり扉を叩いてすぐに入室してきた世羅は、キィの姿を視界に入れるなり、隠しもせずに渋い顔をする。しかしすぐに世羅の顔はフェイの方へと向き直り、彼は朗らかに微笑んでくる。

「フェイ、ソウからは何と。私にも聞かせておくれ。」

「民も土地も健やかだと。世羅様もご覧になりますか?」

「そなたが読む声を聴きたい。」

「?」

文を目で追い掛けた方が早く読めるのではないかと思ったのだが、世羅の言い分は少し違うらしい。フェイは首を傾げつつ、世羅にも椅子をすすめ、肩を並べて読み始めようとソウからの文を手にする。

「うッ!!」

隣りで世羅の呻き声を聞き、驚いて顔を上げると、世羅の頬に一点赤みが差している。

「キィ! 世羅様を突いたらいけません!!」

誰がやったのか明らかであるのに、キィは肩の上で澄ました顔をしている。フェイが叱っても自分は悪くないと随分不遜な態度だ。大事ないかと慌てて世羅を見ると、彼は苦笑して首を横へ振った。

「フェイ、構わぬ。子どもじみた嫉妬だ。」

「ですが・・・。」

「一度、執務室へ戻る。頃合いを見計らって一人で来なさい。」

世羅がフェイに素早く耳打ちを残し、衣を翻して書斎を去っていく。一方のキィは勝ち誇ったように世羅の退出を見送っていた。




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世羅とキィの嫉妬合戦。。。
「2」で終わりにする予定ですが、
明日の昼に更新できるかはちょっと微妙なところなので、
気長に待っていただけると!有難いです!!

今日だけ出勤時刻が遅かったのに、間違えて一時間早く出勤。。。
手持ち無沙汰な時間を使って書いた突発的なお話です(笑)

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