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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

祝い酒4

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祝い酒4

西の行商が王都へ着いたという一報が入り、世羅は真っ先にその事をフェイに伝えた。王都へ行商が入る際、必ず王宮の然るべきところにお伺いを立ててから街で商いをする決まりになっている。また各地の役人が王都へ出向いた際は王へ謁見するのが常なので、ソウの同行はそこで知ることとなった。

フェイが王宮にとどまっている冬、彼は退屈そうに見える。そして心なしか覇気もなくなってしまうので、せめてもの気晴らしになればと思ったのだ。

自分には公務が山のように控えている。そして一国の主である以上、気軽に出歩くことも叶わない。今頃、再会を喜び合っているだろう彼らに思いを馳せながら、世羅には王宮の執務室で待っていることしかできなかった。

巻物の山を見て、世羅が溜息をついていると、コツコツと窓を叩く音に顔を上げる。執務室は王宮の最上階にあるため、こんな高いところを訪ねてくる無遠慮な客は一羽しかいない。

「キィ・・・。どうかしたのか?」

彼はここに来れば上等なムギにありつけることを知っている。気の合わない自分のもとへ来る用事などそれくらいだろうと皿に盛ってやるものの、彼はそちらには見向きもせず、世羅の机に鎮座する。

「何用だ?」

尋ねたところで言葉が返ってくるわけではないが、どうにも国鳥というのは、その存在感といい、悟ったような顔をするので、話し掛けずにはいられないのだ。

キィが何かを見定めるようにジッと見つめてくるので、どうにも居心地が悪い。

「仕事はしているよ。ほら。」

しかし彼は世羅の公務にも特別興味を示した様子はなく、軽々跳ねたと思ったら世羅の肩に乗って身を寄せてきた。

「どうしたのだ?」

尋ねてもキィは鳴きもしなければ目を合わせることもしない。訪ねてきた理由を知ることは叶いそうになかったので、世羅は深く溜息をついて椅子に腰を降ろす。黙っているのも気まずいので、キィの返事は期待せずに世羅は再び口を開いた。

「フェイは喜んでいたか?」

せめてフェイの様子がわかればいいのに。目の前の巻物に手を伸ばしたところでキィが世羅を慰めるように落ち着いた声音で一声鳴く。

「・・・キィ?」

相変わらず世羅の方を見る気はないらしいが、肩に鎮座したまま身を寄せてくるのは変わらない。

もしや世羅の独り身を慰めに来たのだろうか。巻物を両手で丁寧に開いていきながら、世羅はキィの今ある立場について考えてみる。

フェイはレイにかかりきり。あぶれているのはキィも同じなのかもしれない。あるいは子守りに疲れて逃げてきた可能性もあるが。

いずれにしてもキィは世羅の肩から降りる気配はない。よくよく見ると、仕方なく相手をしに来てやったと言わんばかりの澄まし顔だ。

「キィ、私は別に寂しくないぞ。」

強がりで訴えてみる。しかし多くの公務を片付けなければいけないのは事実なので、寂しがっている暇はない。

「そなたのように飛べたら・・・」

こんな窮屈な場所から逃げ出して、すぐにでもフェイを攫いに行くのに。

虚しい空想に耽ってしまう自分に苦笑していると、気遣うようにキィが頬擦りしてくる。

そばで慰めてくれるのが鳥一羽というのが、かえって世羅を落ち込ませた。慰めてくれるなら、せめて人がいい。惨め過ぎて泣きたくなる。

あの幼子は今夜フェイに添い寝でもしてもらうのだろうか。そう考えただけでも羨ましくて気が狂いそうだ。

「キィ。降りて、ムギでも食べておれ。」

肩から追い払おうとすると、雑な扱いを怒ったように、キィがバタバタと低空飛行しながら抗議の声を上げる。

「ああ、もう! キィ、大人しくしておれ! 私はこの山を片付けなければならぬのだ!!」

泣きたい。もう全てを投げ出してしまいたいくらいだ。

きっと今頃、ソウの土産話に華を咲かせて、フェイは楽しい時間を過ごしているのだろう。そばにはフェイを羨望の眼差しで見つめるレイがいて、そんな彼にフェイは優しく微笑むのだ。けれど世羅がその輪に割って入ることは絶対に叶わない。この執務室で叫んでも、地団駄を踏んでも、こればかりはどうにもならないのだ。

「ああ、なんとかならぬものか・・・。」

せめて毎夜逢瀬が叶うなら、ここまで鬱憤は溜まらなかったと思う。

悶々としていると扉を叩く音がする。一瞬期待した自分が愚かだった。入室してきた顔ぶれを流し見て、世羅はがっくりと肩を落とす。

「次のご公務の準備が整いましてございます。」

「わかった・・・。」

大して捌けなかった机の山は、今夜かかりきりで目を通すより他ない。夜這いなど夢のまた夢だ。
キィの方へ目をやると、やれやれ騒がしい奴だと言わんばかりに尾を向けて飛び去っていく。

「あやつめ・・・」

ところ構わず当たり散らしたい気分だったが、小声で悪態をつくにとどめる。

フェイの代わりになるものを何か強請ろうか。今度共寝が叶ったら、きっと彼の分身となるものを譲り受けて、寂しさや虚しさを慰める友にしようと決めた。










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