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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

碧眼の鳥47

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碧眼の鳥47

兄が栞代わりにしていた押し花の行方はわからなかった。

世羅が知っていた宝物箱からはいつの間にか消えていて、亡くなる前に理世がどこかへ持ち去ってしまったようだった。

「皆で探そう。どこかに落ちてしまったのかもしれぬから。」

「いいえ。」

「探さぬのか?」

「良いのです。理世様が探し出されることをお望みではないのかもしれませんから・・・。」

フェイの顔を見ると、納得しているような面持ちで、キィも何故だか神妙な顔で世羅を睨みつけてくる。

キィには本格的に嫌われたらしい。目を合わせるたびに黒々とした瞳がこちらを射抜いてくるからだ。

「フェイ。今宵は私と過ごさぬか?」

回りくどいことをしていても、どのみちキィに阻まれて近付けない。ここは本人に直接申し出るのが一番だろう。

「できれば、そなたの相棒は誰かに預けてくれると嬉しいのだが。」

フェイの頬がサッと赤く染まる。意味を察してくれたらしい。

キィの目が鋭くなっていることに気付くことなくフェイが頷くと、まるで話を察したかのようにキィが世羅を威嚇しはじめる。

「キィ、あんまり世羅様を困らせたらいけませんよ。」

窘められて悔しそうに押し黙るキィの視線が痛い。しかしこちらも負けてはいられない。一番の宿敵が人間ですらなくて鳥だなんて、全く笑えない話だ。人間らしい仕草ばかりをしてくる彼は、自分が鳥であることを忘れているのではないだろうか。

フェイが青い押し花の話をしはじめた時、胸に微かに抱いていた不安が芽を出しそうになった。通じ合っているのはフェイと自分ではなく、兄なのではないかと。

しかしフェイは見つけることのできなかった押し花の話を、その後一度も口にはしなかった。それきり気にする素振りを見せなかったので、世羅を安心させたのだった。


 * * *


我が主君に愛を囁いているだろう世羅を遠目で見ながら、キィはそっと窓から離れた。そしてキィが向かったのは王宮の庭に誂えた、自分の寝床だった。

庭師は木々や草花の手入れはするが、崖の手入れはしない。もともと空いていた小さな穴が収まり良く、雨風も凌げるので、昔からキィにとって素晴らしい隠れ家だった。

この隠れ家には柔らかい大きな葉を敷いて、寝床にしている。そしてここにはキィの宝物が二つ仕舞ってあった。

一つはキィの羽根でフェイが織ってくれた古い守札。ずっと昔にフェイが織った少し不格好な守札は彼がキィのために誂えてくれたもの。キィの健康を祈願してくれたものだったが、一年したら燃やしてしまうなどと言うので、こっそりここへ隠したのだ。

もう一つは先の天帝に貰った青の栞。花がぺしゃんこになって紙に押し付けてある。元々はフェイが彼にあげたものらしい。使うことができなくなるからくれてやると言われて貰ったのだ。

彼はいつもキィに良くしてくれた。彼の部屋の出窓を叩いて入室すると、いつも穏やかな顔で迎えてくれたものだ。

おまえのように大空を飛べたら気持ちが良いだろうに、私はおまえと違って籠の中の鳥だ、と言うのが彼の口癖だった。

彼は世羅のように乱暴な扱いはしてこなかったから、彼の手に撫でられるのも悪くなかった。

フェイも彼にとてもよく懐いていたと思う。すっかり気に入って、彼とつがいになるのかと思っていたが、キィの予想に反してフェイは世羅とつがいになった。

我が主君の考えはわからなかったが、最近見違えるほど笑顔をこぼすようになったので、キィにとっても喜ばしいことだった。

先の天帝が亡くなってしまった時、フェイは酷く憔悴していた。眠っている時も、抱きかかえるキィの羽根を何度も涙で濡らしていた。ようやく立ち直ることができたのは良いことだ。

一つ気に食わないとすれば、世羅のこと。ことごとくこちらの邪魔をしてきて、フェイとの仲を裂こうとする。そして彼が絡むと必ず良くないことが起こる。この数ヶ月、主君は災難続きだった。
毒をあおったり、崖から落ちて目を覚まさなかったり。たった一人の主君を奪われる身になってほしい。

しかし王宮へやってきてからというもの、フェイはすっかり世羅に騙されて親しくしている。また良くないことが起きたらどうしてくれるのだ。こちらの心臓がもたないではないか。

主君を守るのは我が務めと思い、世羅に抗議しているが、あやつは鼻であしらったりするから、気に食わない。

我が主君はハッキリ物を言わないたちだから、世羅に迷惑だと言えないのだと思い至り、気を利かせて代わりに抗議することも多い。しかし近頃はキィが窘められたりする。納得がいかないのである。

世羅に手を引かれ、肩を抱かれているフェイは幸せそうな顔をしていた。性根の悪い人間に想いを寄せるだなんて、フェイの趣味は変わっていると思う。

けれどフェイが幸せならそれでいい。世羅と上手くやっていくには骨が折れるが、主君の幸せのため、できる限りのことをしようと思う。

フェイは寂しがり屋だ。だからこそ、人に寄り添って温かい言葉をかけ、心を安らかにすることができる。キィにとって誇れる主君である。

フェイの師が亡くなって以降、旅路はいつも一人と一羽だった。その寂しさの大半を埋めてきたのは間違えなく自分だとキィは思っていたが、人は遠く離れていても、心を分け合える生き物らしい。世羅の存在がその一端を担っていたとは考えたくないが、フェイの様子を見ていたら認めざるを得ないだろう。

世羅の部屋に灯っていた燭台の明かりが一つずつ消されていく。寝台のそばにあるものだけを残し、二つの影が一つに重なりあったところで、キィは身を丸め、眠りにつくことにした。
















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