ポチャッと湯が跳ねて、フェイの肌の上を温かいものが滑り落ちてはまた巡っていく。世羅の手が幾度も辿って、フェイの冷えた身体は熱を取り戻していった。
「フェイ、来なさい。湯冷めするといけない。」
蝋燭の明かりだけが頼りだが、闇夜の光は優しく目に痛くない。
フェイは桶に張られた湯から身体を起こして、白くふわふわとした布を広げて待ち構える世羅の腕の中へ収まった。
一人でできると言っても、世羅はフェイの声が全く聞こえていないかのように振る舞う。世話役がやることを普段進んでやりたがるような性分でもないのに、フェイは世羅の行動を不思議に思うのだ。
フェイが旅路で野宿する時、布に水を含ませて身体を清めることもあるが、ゴシゴシと皮膚が赤みを差すほど擦ってしまう。師匠もそのように身体を拭って汚れを落としていたからそういうものだと思っていた。
しかし世羅はどうだろう。宝物に触れるように、壊れることを心配するように、そっと布を押し当ててフェイの肌に浮いた湯の玉を拭っていく。
「世羅様」
「どうした?」
「もっと擦ってくださっても平気ですよ。少し・・・くすぐったいのです。」
触れては離れ、また触れてくる布地の感触がこそばゆい。それを訴えると世羅は少しばかり眉を顰めて、フェイの要求は呑めないと言ってきた。
「そなたの肌に傷がついては大変だ。それに・・・私以外がそなたに傷をつけることは許せぬ。だからそなたの申し出は受け入れられない。」
肌に赤みが差したところで特段支障はない。年中、野山を駆け巡るフェイには傷がつくことは日常茶飯事だ。今さらそんな事を気にしている世羅に戸惑いつつも、何か彼には許し難いことがあるらしいのだと納得するより他なかった。
「キィ、眠った方がいいですよ。もう出掛けたりしませんから。」
窓辺に居座って世羅とフェイの様子を窺っているらしい相棒に休むよう声をかける。するとジロリと彼の瞳が光って、訝しげにこちらを睨み、呆れたように部屋から去っていく。
「キィ・・・誘わずにお出掛けしたから怒っているのかも・・・。」
「気まぐれなあやつの事でそなたが深刻に悩むことはなかろう。」
「ッ!!」
「そなたの中はまだ柔らかい。さあ、私を包んでおくれ。」
世羅の指がフェイの秘部をまさぐって、すでに一度ならず貪った身体を再び求めてくる。
「世羅、さま・・・。」
「今日はあの光を見ながら身体を繋ごうか。今宵の契りを共に胸に刻もうではないか。」
世羅がフェイを軽々と抱き上げて、先ほどキィが居座っていた出窓で重なり合う。厚手の布がフェイを受け止めて、世羅に圧し掛かられても出窓の冷たさはフェイの肌に触れることはなかった。
横に目をやればガラス越しに王都の光が夢の一部を切り取ったように美しく揺らめいている。
「綺麗な光だ。フェイ、そなたも美しい。」
「んッ・・・ふぅ・・・」
ぼんやりと遠くから漏れる柔らかい光に包まれる。フェイの中にすぐ分け入ってきた世羅の象徴は、さきほどまで平静と涼しい顔をしていた人のものとは思えないほど猛っていた。
「世羅、様ッ・・・ん・・・」
「もっと、深く、そなたと繋がりたい・・・赦すと・・・赦すと、言っておくれ。」
「あッ・・・世羅、さま・・・」
「フェイ、そなたの可愛い口で、赦すと・・・」
世羅の熱情が奥を突くたびに思う。これ以上深く繋がることなどできない、と。けれど世羅が奥へ奥へと突き進んでくることに喜びと恐怖が混ざり合って、フェイの胸ははち切れそうになる。
「・・・らッ、さま・・・世羅、様ッ、に・・・わたし、の・・・ゆるし、など・・・」
溶けていくばかりの身体は、世羅が何を望んでいるのか、正確に推し量ることができない。世羅は言葉の影に本音を隠してしまう人だから。汲んで差し上げたいのにそれが叶わず、思わずフェイの目尻から涙がこぼれ落ちる。快感からか、悔しさからくるものなのか、フェイ自身にもよくわからなかった。
「世羅、さまッ・・・ッら、さ、ま・・・」
彼の名を呼ぶたびに激しさが増していく。振り落とされまいとしがみ付くと、フェイの中に息づく世羅の昂りが堪らないとばかりに膨れて波打った。
「ッ・・・フェ、イ・・・はぁ・・・」
奥に感じた熱に誘われて、フェイの先端からも薄い蜜が力なく滴り落ちる。日を跨ぐ前にも幾度もそこから蜜を溢したから、もうこれ以上は何も出すものがないのだと身体が訴えたのかもしれない。
「フェイ・・・」
一方世羅は相変わらず無尽蔵であるらしく、彼の熱い迸りはフェイの身体の奥で存在感を持って蹂躙していた。
「世羅様・・・もう・・・」
「フェイ、すまない。今宵はどうしてもそなたが欲しくて・・・。」
共寝するたびに同じことを言われているような気がして、フェイは微かに首を傾げる。しかし世羅はその様子に気付いた様子はなく、フェイが放った腎水で汚れることも厭わず、圧し掛かって抱き締めてくる。
チラリとガラス窓の外へ目をやると、家々の軒下に燈る光が力を失くしたように思えた。何故かと胸の内に問うてみて、すぐにその違和感の正体に気付き、空が明るさを持ち直してきたことに愕然とする。
「フェイ。今日、陽が落ちるその時まで、私だけを想うと誓いなさい。」
「え・・・?」
思いのほか真剣なまなざしがフェイを見下ろしていて、その迫力にフェイは静かに息を呑む。
「私以外、他の誰も、その心の内に入れてはならぬ。」
「・・・。」
この御方は嫉妬なさっているのだとわかって、迂闊に理世の存在をほのめかしてしまった気遣いのない自分の口を悔いる。
「世羅様」
「フェイ・・・」
「私は世羅様とともにいられて、今、幸せでございます。ずっと・・・」
「・・・。」
「ずっと、この先も共におります。」
一緒に陽の光や星々に見守られて生きていく。本心からの言葉だったが、世羅の瞳が寂しげに揺らいでしまう。そして続いた彼の言葉に、自分と世羅がそれぞれに思い描く理想像がはっきり違うことを感じ取った。
「嘘をつけ・・・春になったら、またそなたは私のもとから去っていくだろう?」
「世羅様・・・」
「すまない・・・そなたの生き方を責めているわけではない。ただ、そなたをずっとそばに置けないことが寂しい。それゆえの我儘だ。忘れておくれ。」
「世羅、ッ!」
言葉はいらないとばかりに唇を吸われて、フェイは肯定することも否を唱えることもできなかった。しかし例え何か言う事が許されたところで、何と言えば世羅に与えた悲しみを癒すことができるのかわからなかったから、これで良かったのかもしれない。
「フェイ。今日はどこへも行ってはならぬ。」
キィのもとにも、と耳打ちした世羅はもういつもの微笑みを浮かべる彼だった。憂いを感じさせない笑みにフェイは一安心する。この御方を悲しませない方法はただ一つ。また来る年も無事に彼の腕の中へ帰り着くことだ。
どうか実りある年がまた人々に訪れますように。
フェイは柄にもなく世羅に唇を強請って、世羅を大層喜ばせた。
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本日は予約投稿いたしました。
きっと今頃、私は抜歯中でございます。
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朝霧とおる
2. 無題
理世への嫉妬に、なんだか切なくなりますなぁ。
亡くなった方って、ある意味、無敵ですよね。生前とは違ったインパクトで美しく、生きてる人の心に在り続けますから。
ああ、それにしても嫉妬でボルテージ上がりっぱなしの止まらぬ世羅のおかげで、朝まで(笑)
華奢なフェイの身体が壊れないか心配だわw
あ、長旅で足腰鍛えられてるから平気か❓(笑)
世羅ったら、キィにも会うなとかwキィに聞かれたら猛攻撃されちゃうよ⌒(ё)⌒<≪巛;゚Д゚)ノ
世羅とフェイ。それぞれの立場と想い。そこから生じる温度差。世羅のヤキモキはこの先も果てしなく続いていきそうですね~(^_^;)
わ、フェイからちゅーを強請るだなんて!
良かったね!世羅(,,> <,,)♡これでまた火が点いてしまうかもー朝までコースかもー(笑)
とおるさん、抜歯という一大事に予約投稿までしてくださり、ありがとうございました~無事に終わったようで何よりです(^^)しばらくは食事とか大変かも知れませんが、どうぞお大事になさって下さいね(^^)/
Re:無題
単なる恋慕を超えた何かがあるかな、と。
世羅には少々酷な話ですが、コロッと世羅に落ちていたら、きっとそれはフェイではなくなってしまう。
せっせと世羅には嫉妬心に燃えていただきたいと思います。
フェイは旅路で鍛えた足腰がありますので、意外と丈夫!なはず、です!!(笑)
無事、抜歯の衝撃からは脱しまして、日常が戻ってまいりました。
ご心配いただき、ありがとうございます!!