王宮の庭でたわわに実る橙色を手でもぎ取る。フェイはその橙色の実を手に収め、鼻を近付けて爽やかで甘い香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「今年は一段と美味しそう・・・。」
朝晩と日中の寒暖差が激しい方が実が引き締まり甘さを蓄えて美味しくなる。この実が熟し始めた頃合いから王都はそのような気候が続いた。きっと美味しいに違いない。しかしキィが食すには重く、世羅はこういうものを採って食べることがない。だからこの王宮でこの実の素晴らしさを知るのはフェイだけだった。
フェイは木のそばへ腰を降ろして、橙色の皮を手で器用に剝き始める。そして現れた小さな粒を口へ運び入れ、フェイは頬を緩ませた。
「甘い・・・今年はいい出来です。」
至福の時を過ごしながら、ゆっくりその味を堪能していると、風が強く吹き始め、空が急に雲を連れてきて辺りを暗くした。
「あ・・・雨・・・。」
ぽつりとフェイの額を濡らしてから辺り一面を濡らすまで、そう時間はかからなかった。
「わッ! わぁ!」
旅慣れた衣ならば濡れることなど大して気に留めることはないが、今纏っている衣は世羅からの贈り物だった。薬師には薬師に相応しい衣があるのだが、世羅はどうしてもこの煌びやかなものをフェイに着せたいらしい。こだわりはないから彼の言う通りにしていたが、濡らしてしまったら肌触りの良い召し物に戻すまで、それなりの労力がかかることを知っている。世話役の仕事を増やしては大変だと、手で裾をまくり上げ、屋根のあるところまでひた走る。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
「フェイ! あぁ、そんなに濡れて!」
血相を変えて待ち構えていた世羅が、湯浴みの用意だ、替えの衣を、と騒ぐ。そんなに慌てることなどないだろうと、フェイはきょとんと一国の主を見上げた。
「世羅様、私は大丈夫ですよ? 一人で着替えますから・・・。」
「ダメだ!」
「・・・。」
濡れた衣を世羅の手が取り払っていく。一番上の羽織物だけ世話役に託した彼は、軽々とフェイを両手で抱え上げ、どこかへ突き進む。しばらくして彼の寝室へ向かっているのだと気付き、フェイは戸惑いの声を上げた。
「世羅様、あの・・・」
「もう十分過ぎるほど待ったのだから、今度はそなたが私の願いを聞き入れる番だ。」
「え?」
「二人で湯浴みをして、温まろう。そなたの大事な身体を冷やしたらいけない。」
「寒くありませんよ? 少し濡れただけにございます。」
本当に少し雨に打たれただけだ。体調を崩すようなこともないだろう。こんなことは旅路で幾度も経験したこと。騒ぐほどのことでもないというのに。
「晩はもっと冷える。私の温もりを受け取ることができないと申すか?」
世羅の言葉に色事の誘いが含まれていることをはっきり感じ取り、フェイは世羅の腕の中で俯いた。
「いいえ、でも・・・まだ、夜には遠くございます・・・。」
「誰も咎めたりせぬ。」
寝台の周りにはすでに香が焚かれていた。二人が交わる時にだけ使われる香が鼻をかすめるだけで、肌が何かを求めるようにざわつき始める。
「世羅様・・・。」
フェイはそっと寝台へ降ろされた後、覆い被さってくる世羅の重さを受け止めた。
* * *
香油と世羅が中で放ったものが混じり合って、フェイの秘部でコポッと音を立てる。
「もう、世羅様ッ・・・あ!」
「フェイ・・・もう一度。もう一度だけ、受け止めてほしい・・・。」
フェイの上に跨り、一度は身体を震わせた世羅だったが、彼の象徴は未だにフェイの中で存在感を主張しており衰えることを知らないようだった。しかし一度と請われて、一度で終わった試しはない。胸も身体も苦しくなる一方で満たされていく不思議な行為。彼がもう一度と願うなら受け止めてあげたいとフェイも思う。
「世羅様・・・。」
寝台に敷かれた白い布地を握り締めていた手を離し、世羅の背へ腕を回す。彼の願いを受け入れるという合図だ。するとフェイの中で世羅のものがグンと勢いを増す。
「ッ・・・フェイ・・・」
感じ入りながら呻く世羅の声が行為の生々しさを伝えてくるようで、フェイは顔を熱くする。再び始まった律動に身体が放り出されるような感覚になりながら、フェイは必死になって世羅にしがみついた。
「恥じらう、そなたも・・・愛おし・・・ッ・・・」
「世羅、様ッ・・・あッ!」
彼の目をどうにか捉えようとするけれど、奥で生じた衝撃にフェイの身体が大きく震えて嬌声が上がる。
「あぁ・・・もう、少しッ・・・」
世羅の快感に打ち震えた声がフェイの耳元にこぼれていく。耐えたいのに堪え切れないとでも訴えるような声だった。
「・・・あッ・・・ん・・・ん・・・」
「そなた、が・・・可愛いのが、いけないッ・・・はぁ・・・フェイ・・・」
フェイを蹂躙しながら世羅が高みへ昇っていくのをフェイは肌から伝え聞いて感じる。その昂りに呼応するように、フェイの身体の奥でも快感が絶え間なく弾けていく。世羅にも伝わっていたのだろう。世羅の手が爆ぜやすいようにとフェイの象徴を擦り上げていった。
「あぁッ、や・・・ら、さまぁッ!」
「ッ・・・フェイ・・・フェイ・・・」
律動が激しくなり、世羅の背に回していた腕が振り落とされる。力を失ったフェイの手を、世羅がすかさず押さえつけてきて、フェイは寝台の布地へ縫い止められた。
「あッ・・・あッ・・・ん・・・んんッ!」
突き上げてきた世羅の熱塊がいっきに嵩を増して波打つ。
「うッ・・・ふぅ・・・」
頭上で世羅が呻くと同時に奥にじわりと熱が広がるのを感じて、フェイはその熱さに身体を震わせた。そしていつの間にかフェイの象徴も蜜を解き放って、二人の肌を幾度も濡らしていく。
「んッ・・・ん・・・」
「フェイ・・・あぁ、足りぬ・・・フェイ!」
快感の波が去る間もなく、世羅が抑えきれないらしい熱情を再びぶつけようと抱き締めてくる。
「世羅様・・・少し、休みッ」
せめて息継ぎをする間を、と声を上げたが、フェイの言葉は世羅の口付けに呑み込まれてしまう。
寝台を囲う燈火が二人の熱量にあてられて揺らめく。今宵、王都へ赴くはずだった二人の約束は、本降りになってきた雨音に搔き消されていく。そしてそんな二人へ抗議するように、王都の空でキィが鋭く一声鳴いてみせた。
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ちょっと駆け足で申し訳ないです!
背後から感じる視線を交わしつつの更新は、心臓に悪いことを学びました(笑)
晴れた日に、フェイを王都へ出してあげたいなと思うので、
ハロウィンのランタンに代わる収穫祭の燈火を二人と一羽で見に行く話を、後日アップいたします。
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朝霧とおる
2. お疲れ様です。
絶倫世羅に翻弄されてるフェイ。
いくら愛してると言っても、こんなに愛されたらフェイが壊れちゃうよ・・・・。
なぁ~んて言うのは、野暮ですね(笑)
そりゃ~、キィだって一声鳴きたくなるでしょう(笑)
堪能させて頂きました。
Re:お疲れ様です。
世羅はキィの邪魔もあって諸々溜まっているものが多そうです。
時々我に返ったフェイに怒られながら・・・なんてこともあるかもしれません。
二人と一羽、私も楽しんで書いていきたいと思います。
年末年始は盛り上がりそうだなぁ・・・と妄想しながら、小出しにお届けしていきますね。
またその際はお付き合いいただけたら嬉しいです!