直樹の瞳に漲る熱を感じた時、初めて好かれているということを実感した。世の恋人たちはこんな風に愛を確かめるのか、と最もらしいことを思って、浮かれながら触れてくる直樹の手に翻弄された。
「拭いちゃうの、もったいないね。」
直樹が肌に放ったものを満ち足りた気分で眺めていると、彼が困ったような顔をして春哉を見つめてくる。その頬はちょっとだけ赤くて、春哉は惹かれるままに直樹の頬に唇を押し付けた。
「あ……。」
身体を傾けた所為で胸の上に放たれた蜜がとろりと肌を滑って落ちていく。その生々しい感覚につい声を上げて、春哉は手で白濁をすくい取った。
「は、春哉さん、拭いて!」
焦った様子で直樹がティッシュケースを取ろうとしたので、春哉は彼の腕を掴んで動きを封じ込める。
もう少し二人でくっついていたいのに、直樹はすっかりおしまいにする気なのだ。それが彼の羞恥心からくる言動だということはわかっているから悩ましい。彼の気持ちを蔑ろにするつもりはない。けれど己の望みを押し通したくなる我儘な性質は、昨日今日ですぐ修正できるものではなかった。
「ナオ、一緒にシャワーしよ?」
「え……。」
「ダメ?」
こうやって聞けば、否とは言わない直樹の性格をわかっているからこそ。それだけ必死だし夢中なのだ。
「それは……。」
直樹が頷いてくれるのを今か今かと心待ちにしていたところで、無粋な邪魔が入る。ドアを乱暴に叩いてくる音で、構えているのが竜崎だと春哉にはすぐわかった。
「ナオ、点呼だ……。」
「あ……。」
「おい、いんのか?」
こちらの状況など知るはずもない竜崎が、なかなか応答しない二人に焦れて再びドアを叩いてくる。
「いるー。今、取り込み中だからダメ!」
「はぁ!?」
「最後に回ってきて!」
「芝山はいんのか?」
「い、います!」
「最後にもう一回来るから、顔出せ。」
「はぁーい。」
隣室へ去っていく竜崎と柳の足音を聞いて、二人で肩を落とす。浮かれ過ぎて、点呼のことなど忘れていた。こんな風に考えなしだから、竜崎や柳から小言を食らう羽目になるのだろう。直樹のことも巻き込んでしまった。
「ナオ、ごめんね。」
「……え?」
「次は、もうちょっと時間考えてしようね。」
春哉の謝罪に一瞬顔を強張らせた直樹だったが、どうやら彼が構えていた答えと春哉の言葉は合致しなかったらしい。すぐホッとしたような顔をして小さく笑う。
「ナオ、何で笑ってるの?」
「何でもありません。」
「うそぉー。何でもなかったら笑わないよぉー。」
「春哉さんらしいな、って思っただけです。」
「えー?」
直樹が笑う理由がわからず、覆い被さってベッドの上で戯れる。しかし直樹が我に返り、慌てた様子で着替えを促してきたので、渋々肌の上の飛沫を拭って雑にシャツへ腕を通した。
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朝霧とおる