せっかく直樹と過ごせると思っていたのに、とんだ誤算だ。補講があるだなんて、風邪と諸々の騒動で完全に失念していた。竜崎に散々、バカだ、アホだと言われ、すっかり挫けて教室へ戻った。
「小塚ぁー。目開いたまんま、寝てんのかぁ?」
「あ……起きてまーす。」
「黒板はそっちじゃないぞー。」
「はーい。」
窓からは、校庭でストレッチに励む直樹の様子がよく見えた。彼は春哉と同じ学年の生徒と組んで、なんだかんだ楽しそうに取り組んでいる。大切な彼を取られたような気がして、春哉は不貞腐れながら眺める。
先生の話は右から左へと春哉の耳を素通りしていく。直樹のことが気になって、ちっとも内容が頭に入ってこない。配られたプリントは、泣き崩れるウサギのイラストを描いたきり、机の上に投げ出されていた。このままだと追試の追試になるかもしれない。泉ノ森は教師陣が決める一定水準までの学力に達しないと、半永久的に終わらせてくれない。
「先生ぇー……。」
泣き真似をしながら机に伏せる。すると先生が肩を落としてチョークを置く。
「先生の方が泣きたい……。」
結局彼は黒板に書いて講義するのを諦めて、春哉の隣りに腰を下ろす。
「ほら、ウサギが泣いて終わらないように頑張るぞ。」
「あ……。」
今更慌てて隠したところで遅い。プリント上部で泣き崩れるウサギを隠すことはせずに、春哉は気まずさを誤魔化すように口を尖らせる。
「小塚。先生は早く休憩したい。」
「行ってきてもいいですよ。」
先生の苦笑に呆れと疲れを感じる。
「おまえがこのプリント埋めてくれるまで、休憩取れないんだよ。」
「そっか、大変だね。」
「わかってくれたんなら、早く解いてくれ。」
「はーい。」
男所帯で華がないだなんて嘆いている生徒は泉ノ森にはあまり見かけない。先生も上級生たちも厳しいけれど、心の距離の近さが自分たちを卑屈にさせたりしないのだ。厳しさの中にちゃんと思いやりがあるとわかっている。緑も人の温かさもたっぷりあるこの場所に、春哉は何一つ不満はなかった。
「先生」
「何だ?」
「先生って、恋人いる?」
「小塚、問題を解いてくれる気はあるのか?」
「あ……。」
「おまえは、ある意味天才だな。」
真に受けて照れると、褒めてないと諫められた。
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朝霧とおる