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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

新緑の楽園25

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新緑の楽園25

一目散に食堂をあとにしたのは、廊下で直樹と擦れ違わないためだ。せっかく落ち着いたのに、また心を乱してしまっては、竜崎や柳とまともに話もできなくなってしまう。

談話室の中央で話していた二人を奥へ追いやって、春哉自身は角にあった椅子にすっぽり身体を滑り込ませて息を潜めた。

「芝山と何かあった?」

柳は何かにつけて目敏い。見当を付けられていそうだなと、春哉は身を縮めて小さく頷く。

「好きだから、嫌われたくなくて……でも、嫌われてるかもしれなくて……。」

「何かしたの?」

「え、好きって?」

「光、ちょっと黙ってて。」

怪訝そうな顔で聞いてきた竜崎の言葉を柳が遮る。

「好きなのは間違えないの?」

春哉が再び頷くと、柳が深い溜息をつく。

「おまえ、まさか迫ったりしたんじゃないだろうな?」

そんな事していない、と言いかけて、欲望の赴くままに行動していた自分を思い出す。ベッドへ侵入したり、抱き着いたりしていた。一つひとつは些細な事でも、積み重ねれば疎まれるだけの原因になるかもしれない。情けなくなって丸まり、春哉は二人に背を向けて壁に額を預ける。

「俺が思い出せるだけでも、色々やってんぞ。」

「ちょっと触っただけだもん……。」

「触りたいと思って触ってる時点で黒だな。」

呆れたような竜崎の声に、泣きたくなる。涙の跡で突っ張っていた目元の皮膚が痙攣して、瞳に薄っすらと涙が張っていく。

「ほら、光、虐めない。春哉は、どうしたいの?」

「……ナオに、嫌われたくない。」

椅子の上で蹲ったまま、震える声を絞り出す。

「告ればいいじゃん。フラれたら、すっきりすんだろ。」

「ヤダよぉ……。」

「だろうな。」

他人事だと思って適当な事を言っているのかと思いきや、春哉へ向ける竜崎の眼差しは意外にも優しい。考え込むような仕草をするので、一応心配はしてくれているらしい。

「言わない方がいいでしょ。」

「これが年度末なら勢いに任せて、っていう手もあんだけどなぁ。」

「同室っていうのが難しいよね。」

「でも、待てって言われて、おまえ出来んの?」

隠し事は苦手だ。思うまま、望むまま、のびのびとここまで生きてきたから、機を待つとか相手の様子を窺うといった分野は専門外。数学や英語以上に出来が悪いと自信を持って言える。

「今まで通りにできそう?」

「ムリ、かも……。」

「じゃあ、小出しにしてみる、とか。」

「小出し……。」

これまた柳は難儀な事を言ってくれるなと思ったが、一から十まで、直樹にしたい事すべてを我慢するわけではないから、自分にも出来る気がしてくる。

「告白して玉砕するより、ある意味大変だよ。」

「え?」

安易に頷いた春哉に釘を刺すべく、柳が眉を寄せる。

「様子見ながら、計算して近付く、ってことだからね。」

「計算……。」

「春哉から最も縁遠い言葉だなぁ。」

「じゃあ、ぴかりんはどうしたの?」

鼻で笑ってきた竜崎にムッとして、話題にするのを嫌がる柳との事について、わざと話を振る。

「俺の事はいいだろ。」

「光は案外策士だよ。」

「ちょッ!」

「でも向き不向きがあるからね。春哉にはムリ。」

わかりにくいけど、柳にノロけられたのかもしれない。柳の言葉に満更でもなさそうな顔をする竜崎を、春哉は一瞥する。竜崎に一杯食わす予定が、二人の仲を見せつけられたようで悔しい。そして羨ましかった。

「川口先生に相談しようかなぁ。」

密談するなら、もってこいの相手だ。

「やめとけ。遊ばれんぞ。」

「自分が上手くいってるからって、ズルい。ぴかりんだって、相談してたじゃん!」

「え、そうなの?」

「俺の事はいいだろ。本題逸れてんぞ。」

最初に柳が笑い出して、竜崎がそれに釣られて照れたように笑う。春哉も二人を見ていたら、欝々と悩むのが馬鹿らしくなった。

やはり深刻に悩むなんて、自分には向いていない。

「小出し作戦で頑張ってみようかな!」

「できねぇだろ、おまえ。」

「ぴかりんは俺の実力舐めてる!!」

「そういうのは、赤点取らないようになってから言え。」

軽く竜崎に小突かれ、大袈裟に声を上げながら春哉は抗議する。

「やなぎん、ぴかりんが虐める!」

「テストの件に関しては、春哉の肩は持てないよ。」

「えぇー!!」

三人で騒ぎながら談話室を出ると、丁度一年生の集団が食堂から部屋へ戻るところだったらしく、廊下がごった返している。

求める姿がいるかどうか目を凝らしていると、直樹の姿を視界に捉えた。身体のどこかにセンサーでも付いているのではないかと疑いたくなる感度だ。

ギュッと拳を作って気合いを入れ、なんだかんだ心配そうに見送ってくる竜崎と柳に笑顔を作る。

「頑張る。」

「おう。」

「ほどほどにね。」

手を振って二人のいるもとから離れ、春哉は一年生の群れへ突入した。









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