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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

新緑の楽園24

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新緑の楽園24

いまだかつて、息を殺して誰かの一言一句、その吐息までをも聞き逃すまいと耳を傾けたことがあっただろうか。

発される言葉に怯えながら、手に汗を握る。直樹からこぼれ落ちる言葉が、時に震えるほど怖い。

知らなかった。誰も教えてはくれなかった。人を好きになると、天にも昇る幸福感がある一方で、地に叩き落とされ心が砕けることもある。

今まで誰かの語る言葉が真意であるかどうかなど、深く気にしたことがない。興味がなかったからだ。楽しく過ごすことが第一で、好かれようが嫌われようが、春哉にとって、それは大した問題ではなかった。

けれど直樹に嫌われることが怖い。そう思ったら、今まで躊躇いもなく問いただしていた事が聞けなくなった。

「どうしよう、どうしよう……。」

逃げ出すように部屋を出たのは、直樹の真意がわからず、本音を聞くのも恐ろしかったから。迷惑じゃないと言ってくれたけど、彼の言葉や溜息ひとつに怯えてしまう。今、春哉の心は不安でいっぱいだった。

「あれ、春哉?」

「おまえ、芝山と会えたか?」

「え……?」

「芝山がおまえのこと探し回ってたんだぞ。」

「そ、そうなんだ……部屋で会ったよ。」

いつの間にか保健室を出ていて、姿の見えない自分を、直樹は長いこと心配して探していたらしい。部屋で直樹の口から聞けたら尚嬉しかったけれど、落ち込んでいた気持ちが少し浮上する。そして春哉にとって竜崎と柳は精神安定剤のようなものなので、二人の姿を見られたことでもホッとした。

「部屋で寝てたのか?」

「う、うん……。」

「やっぱり。」

柳が呆れたような視線を寄越すので、春哉は首を竦める。

「どうした、浮かない顔して。」

「まだ具合悪いの?」

問い詰められているような気になってしまったのは、心が弱っている証だろう。普段の二人と何ら変わらない口調だし、むしろ心配してくれているのだと理性ではわかっているのに、胸がチリチリと痛む。

「ぴかりん……。」

「どうした?」

堪えていたものを緩めたら、瞳に涙が溜まって視界が歪む。ベッドの上で散々泣いていたから、再び涙腺が崩壊するまでにさほどの時間はかからなかった。

「ッく……。」

「は? え? おまえ、何で泣いてんの?」

焦ったように身をかがめて狼狽える竜崎とは反対に、柳は春哉の様子を見越していたらしい。もしかしたら目の腫れにも気付いていたかもしれない。自分でも感じるくらいに目の周りがヒリヒリしている。

柳はすぐにハンカチを取り出して、春哉の目から落下する滴を拭ってくれた。

「春哉。とりあえず、ご飯行ってきな。終わったら、談話室おいで。」

「ッく……うん……。」

なんだ、すぐに慰めてくれるわけではないのか、と柳の淡白さに肩を落とす。しかし柳らしい冷静さが笑えて、春哉の涙は少しばかり引っ込んだ。

三年生と二年生が入り乱れる一階の廊下で泣いたものだから、何事かと好奇の視線に晒される。しかし、春哉にとっては珍しい事でもない。良くも悪くも目立っているから、いつものことだ。春哉は気に留めることなく歩きながら、食堂へと向かう。

「もうヤダ。なんで野菜スープなのぉー……。」

すでに着席している面々の前には、ブロッコリーや人参がゴロゴロ入ったコンソメスープが鎮座していた。野菜は全般的に苦手だ。春哉はトレイを手に、鼻を啜りながら俯いて列に並ぶ。

「今日なんか、消えちゃえばいいのに……。」

欝々としていると、前後にいた同級生が心配そうに顔を覗き込んでくる。

「小塚、どした?」

「竜崎先輩に、またシメられたとか?」

一年生だった頃、竜崎に怒られるのは恒例だったから、皆の頭にはその印象がすり込まれている。釈然としないけれど、自業自得なので言い返す言葉もない。直樹のことを公言することはさすがに躊躇われて、曖昧に濁すしかなかった。そんな事をするのも、記憶のある限り人生初だ。

「ブロッコリー、食ってやろうか?」

「うん……。」

沈みきっている春哉が物珍しいのか、一人が気遣い出したのを皮切りに、皆が夕飯消化の助け舟を出してくれる。頼もしい友人たちに支えられて、夕飯を終える頃には、春哉の涙は完全に引っ込んでいた。









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