離れた唇から唾液が糸を引く。柔らかく湿った感触を唇に残して、光は腰に疼く甘い昂りに体温を上げる。
「後悔しても知らないから……。」
この期に及んで自衛に走る隆一がいじらしい。けれど言葉で納得してくれないなら、これから先、光が後悔していない事を行動で示し続けるしかないのだ。
隆一の肌を貪ろうとシャツに手を伸ばすと、すぐに制止の手が入る。圧し掛かる胸板を押し返されて、拒まれたことに少なからずショックを受けた。
「光は何もしないで。」
「なんでだよ。」
「俺が全部するから。」
シャツを掴んでいた隆一の手にグッと力がこもって、光の身体はシーツへ沈み込む。代わりに隆一が光の上へ跨る。そして前触れもなく首筋を這い始めた舌が、経験のない感触を光の肌に生んだ。
「ッ……」
くすぐったいような、焦れったい舌の愛撫に、時折チクリと痛みが差す。
目の前で揺れて誘ってくる隆一の髪に手を伸ばすと、微かにコンディショナーの香りがする。備え付けの物なので、光も慣れ親しんだ香りだ。
振り払われることを覚悟したが、この程度なら許してくれるらしい。さらりと触り心地の良い髪を手で梳いていく。
隆一の髪は光の肌にこそばゆい感触を残す。胸に降りてきた隆一の唇が肌を吸って、光は思わず大きく息を吐き出した。
腰から下が疼いて仕方がない。強く抱き締めて腰を突き出したい衝動に駆られ、身体を起こそうとすると、隆一が咎めるような視線を寄越してくる。
「隆一」
「ダメ」
「俺がしたい」
「光はじっとしてて。」
触れたいから懇願しているのに、隆一は頑なに譲らない。覗き込んだ彼の顔が思いのほか真剣な面持ちで、隆一がまた余計な心配をして悩んでいるのは明らかだった。
「今日はダメ。」
「隆一?」
「……ダメ。」
今まで緩やかだった手の動きが性急に動き始めて、シャツのボタンを毟り取るように外していく。受動的になるのは自分の性分にそぐわないが、光は隆一の好きにさせようと見守ることにする。こういう行為に至るのは隆一が初めての相手だ。勝手もわからないのが正直な気持ち。しかし溢れ出てくる熱情に逆らい隆一の行為を受け止めるのは、初めてだからこそなかなか忍耐のいることだった。
「ッ、はぁ……。」
滑らかな手が兆し始めていた光の分身に直接触れる。二度目でも腹部に走る緊張感はなかなか容易に解けてくれない。緩々と軽く扱かれただけで、光は襲い来る酩酊感に思わず目を瞑る。
「気持ちい?」
「ん……。」
追い立てるような刺激ではないはずなのに、急いて駆け上っていきそうになる。唇を噛んで耐えていると、隆一の指先が唇の輪郭に沿って辿り、立てる歯を諫めてくる。
「我慢しなくていいよ?」
「ッ……」
自分ばかり施される愛撫に文句の一つも言いたいのに、隆一の手に包まれた分身に意識を取られて声にならない。
競り上がってくる熱に、また隆一の手を汚してしまうかもしれないという背徳感が湧き上がる。同時に一度味わった絶頂感を思い出して、冷静でいられない自分に焦った。
「りゅ、隆一……」
「イっていいよ?」
「でも……」
「挿れたい?」
隆一の整った唇を見つめているだけで煽られる。包まれた手に存在を主張するように分身がさらに硬く漲って、先端を濡らしていた先走りの蜜が垂れて隆一の手を汚していく。また一方的に高められていくだけの予感に焦って、光は愛撫の手を掴んで止めに入った。このままでは以前と同じだ。
「ッ……隆一、挿れたい。」
「……俺でいいの?」
「もう何度もそう言ってる。」
どうにか伝わってくれるように眼力を込めて告げたが、隆一の目は不安げに揺れるだけだ。光の言葉に隆一からの返答はない。再び覆い被さってきた隆一に口付けられて、深く分け入ってきた舌の熱さに誤魔化された。
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朝霧とおる