本気で拒む気があるなら、鍵を掛けておけばいい話だ。施錠しないまま机に向かっていたのは他でもない自分。ノックもせず部屋へ入ってきた光の方は見ずに、一行も頭に入っていない教科書を凝視する。
「隆一」
「ッ、ダメだって言ったよね?」
「でも待ってただろ?」
光の言葉で心の内を見透かされていると気付く。余計に目を合わせることができず、光に背を向けるように片肘を机についた。
「そんな、ぐいぐい来ないでよ。」
待つという概念は光の辞書になさそうだ。恐れて現状維持にこだわる自分が押しの強さに焦る一方、こちらの意思を汲まない強引さに喜んでいる。
「だって俺が引いたら、隆一逃げるだろ?」
「そんなこと……」
「せっかく両想いなんだから、隆一に困ってほしいじゃん。」
「え……?」
「俺のことばっか考えて、もっと好きになってくれたら言う事ない。」
背後から抱き締めてくる光の腕は逞しく優しい。息苦しいのは心臓が早く打ち過ぎているから。多くの友人たちと戯れることに慣れている彼は人に触れるための力加減をわかっている。意図的に人と距離を作ってきた隆一にはない経験値だ。
「俺、男だよ……。」
「ちゃんとわかってる。」
「胸もないし、準備も……ッ」
背後から回り込んできた光の唇が、隆一の言葉を遮る。胸の奥が震えて嬉しいと思ったのがすべての答えだ。最もらしいことを並べ立てて自己防衛しても、光の熱に包まれて抗うことなどできない。
「なぁ、隆一。おまえからもキスしてよ。」
本当は自分から光の唇を奪いにいきたいのに、素直になれない自分が顔を背けさせる。けれど光は意に介した様子はなく、再び唇を重ねてきた。
泉ノ森は男だらけだし、特殊な環境に惑わされているだけかもしれない。光にとっては気の迷いかもしれない。そう恐れる自分がいても、光が与えてくれる熱を冷静に諫めることができるほど自分は大人ではない。向けられる熱が嬉しくて、想いが通じ合っていると信じたい気持ちに負けてしまう。
「証明するから。」
「ウソだったら許さない。」
強気な台詞に光が苦笑する。椅子の前に回り込んできたと思った瞬間には、抱き上げられていた。
「ッ……。」
「バレたらヤバいよな。」
「わかってるならやめてよ。」
「ムリ。」
消え入りそうな声で悪態をつくが、光の微笑みに息を呑む。
「ッ、鍵は……」
「閉めた。」
そっとベッドへ降ろされて、丁寧な扱いをされることが無性に恥ずかしくなる。覆い被さってくる光に焦りながらも、すぐ落ちてきた光の唇を受け止めた。
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朝霧とおる