頑なに認めることができないのは図星だからだ。光を好きだと思いながら眺めていることは幸せで、光に好意を寄せられることは満たされる。けれど一歩先へ進んだら、二人に戻る場所はなくて、きっと近い将来泣くことになると思うと恐怖でしかない。
「手出してきたの、おまえだろ?」
「だから出来心だって……。」
伸びてきた光の手を振り払おうと向き直ると、春哉たちはとっくに逃げおおせていた。光に背を向け窓の外ばかり睨み付けていたから気付かなかった。光とのいざこざを噂されなければいいのだが、春哉が相手だと頭を抱えるしかない。
「揶揄って、悪かった。だから、もう……」
「そんな言い方されても、納得できるわけないだろ。」
掴む手の力強さが嬉しいのに悲しい。再び振り払おうと手を引こうとしたが、力では光に全く敵わない。隆一の真意を見定めようと食い入るように視線を注いでくるから、光の視界から逃げることは困難だ。
「俺は隆一以外にされたくないし、触りたいとも思わない。おまえは誰でもいいってことか?」
光ほど潔癖ではないが、全く興味をそそられない人に触れたいと思うほど見境なく手を伸ばしたりしない。けれど肯定も否定もできなくて、結果的に隆一はますます光をじらすだけだった。
「……。」
「答えろよ。やるだけやって……おまえ、ズルい。」
「ズルくていいよ。」
「よくない。」
こんなくだらない意地に、光もよく付き合うものだ。とっくに嫌気が差してもいいくらいなのに。けれど光が真っすぐであればあるほど、その瞳に自分が映らなくなる未来が来ることは怖い。隆一の中で、光は泉ノ森という檻を出たら、離れていくものだという前提が心に巣食っていた。いつか離れていくなら、最初から何も欲しくない。期待なんてしたくないのだ。
「どうしたら本気だってわかってくれんの。」
「別に嘘だとは思ってないよ。」
「じゃあ、何が問題なんだよ。」
「光の……一時の感情に振り回されるくらいなら、何もない方がいいっていうこと。」
目を見て言うことは出来なくて、掴まれた腕を見つめながら本音を溢す。一瞬、掴む手が力んだので、光を怒らせたのかと身構えた。しかしゆっくりと手を引かれて抱き締められる。
「隆一。俺のこと好きだろ?」
自信があると耳元で言ってのけた光の強さに唖然とする。突き放そうと必死にもがく自分が酷く滑稽に思えた。
「された事がショックっていうより、なかった事にされそうなのがムカつく。」
最もな言い分に心の中で苦笑いをする。もうどんな顔をして目を合わせればいいのかわからない。
「光と、どうにかしたいなんて思ってない。」
「あんな事しといて?」
「だから出来心だって……」
「おまえ、結構面倒臭いんだな。」
「……。」
「でも、いいや。俺のこと好きなんだろうなぁ、っていうのは、わかったから。」
「ッ……。」
勝手に結論を出してしまった光が、口を開きかけた隆一の唇を塞ぐ。押し返そうとして、彼が怪我人であることを思い出し躊躇う。しかしその隙を突かれて、光の舌が侵攻してきた。反論を許してくれない強引さに胸が疼き、泣く一歩手前まで隆一の感情は長いこと昂ったままキスを受け止めた。
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朝霧とおる