竜崎と柳の目がないのをいいことに、クラスメイトと羽を伸ばしていると、柳がピリピリした様子で戻って来る。
「人手いらなそうだから戻って。」
「今日はこっちがいいなぁー。」
「いいから戻って。」
「えー……。」
口を尖らせて春哉が不満を露わにすると、負けじと柳が睨んでくる。声を荒げないぶん刺すような眼力に春哉は背を凍り付かせ、それ以上の反論はせず、クラスメイトと目を合わせる。苛立ったように机に向かう柳は、すでに春哉のことは眼中にないらしく怒りの空気だけ背に纏っていた。
竜崎が何かしでかして、怒らせてしまったのだろうか。
忍び足で廊下へ出ると、竜崎が左足を不自由そうに動かして、こちらへ向かってくるところだった。
「春哉。隆一、部屋にいる?」
「いるよー。」
竜崎にしては珍しく小声で話し掛けてくるので、春哉も声を殺してコソコソと答える。
「喧嘩したのー?」
「喧嘩っつうか……怒ってる?」
「怒ってた!」
「はぁ……。」
困った様子で大きな溜息をついたものの、竜崎はまた歩き始めて柳の部屋をノックもせずに開けた。
「おい、隆一。」
「……。」
割れんばかりの声で雷を落とされるより、無言が一番堪えるのかもしれない。廊下でハラハラと二人の様子を盗み見る。クラスメイトの安否を気にしていたら、竜崎と柳のただならぬ気配を察したようで、早々に廊下へ脱出してきた。
「話、終わってないだろ?」
「部屋で安静にしてなよ。」
「話を逸らすなよ。」
「しつこい。」
一触即発の空気に春哉はクラスメイトと二人、身体を震わせる。竜崎には年中怒鳴られているが、不機嫌な柳には初めて遭遇する。相当気に食わないことがあったに違いない。変な気を使って二人を同室にしたのは、余計なお世話だったかもしれないと冷や汗が出てくる。
「逃げよう!」
誰か巻き込まれたら大変だから、ドアをこっそり閉め、クラスメイトを伴って一目散に春哉の部屋へと逃げる。
「やなぎん、って怒ると怖いね!」
「俺、怒ってるの初めて見た。」
「ぴかりん、何しちゃったんだろう。」
「首突っ込むなよ。」
自室のドアを開けると、空気がこもっていて鼻に障る独特な匂いに気付く。直感が働き閃くものがあって、バタバタと慌ただしく窓を開けて空気を入れ替えた。
「もう、世話がかかるんだからぁー。」
「何が?」
「何でもなーい。」
「はぁ?」
ニヤニヤと笑う春哉に不審そうな目を向けてきたクラスメイトだったが、さほど興味がないのかベッドの上段へ上って早速寛ぎ始める。
「早く仲直りしてくれるといいなぁー。」
「だなー。」
元の鞘に納まるか、進むかしてくれないと、二人の下級生に平和は訪れない。竜崎が難しい顔をしないで済む日が早く訪れてくれることを願って、春哉は気難しい柳の姿を思い出して苦笑いした。
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朝霧とおる