際立って大人だと感じていた隆一に悩まされる日が来るとは思っていなかった。返してくる全ての反応が予想外で、適当に流されているのか真面目な返答をしているつもりなのかもわからない。今まではそんな姿が魅力的に映っていたが、今、この瞬間は、煩わしくて堪らない。
「光は好きになってほしいの?」
「ッ、当り前だろ!」
はぐらかされるのが嫌で、逃げられないように抱き締める。しかし言い募っても、隆一は首を傾げて納得いかないとでも言うように苦笑するだけだ。
何もかもが噛み合っていなくて、真っすぐ伝えたはずの好きというこの気持ちさえ届いていないようだ。拗れてしまう理由がわからなくてじれったい。
「出来心なのに……。」
「信じらんねぇ。」
「誘ったの、光だよ。」
「誘ってないし。やらしいこと考えてたのは、認めるけど。」
隠しているつもりだったけど、察しのいい彼には筒抜けだったのかもしれない。だからといって、迫ったわけでもないから、隆一の物言いが腑に落ちない。むしろ見透かして隙を突いてきたのは隆一の方だろう。
「どこに辿り着くと思う?」
「は?」
「付き合ったとして、先があるの?」
冷めた瞳に射抜かれて、ヒートアップしかけていた頭が冷静さを取り戻す。考えなしに好意を口にした光を責めているようにも見えた。
「光は……ここを出たら、女の子のこと好きになるんじゃない?」
「……わかんねぇよ、そんなこと。」
「いつか終わるなら、最初から何もないほうがいい。」
突き放すような言葉の端々に隆一の悲哀を感じ取って、逸らされた瞳を覗き込んで追い掛ける。刺々しさの中に一つの可能性を見出して、光は行き着いた考えをそのまま口にする。
「隆一、それってどういう意味だよ。俺のこと、好き、ってこと?」
「……そうじゃないよ。」
「そう言ってるように聞こえる。」
「曲解し過ぎ。」
「どっちがだよ。」
腕の中から逃げていこうとする隆一を持ち前の腕力で強引に引き留める。睨んできた瞳が薄っすら潤んでいて、自衛しようと必死なのだと気付いた。
「要は、信用されてない、ってことだよな。」
「だから違うってば……。」
「素直じゃないとこも、俺は好き。」
「ッ……。」
澄ました顔の下に別の想いを抱えていたというなら、その強がりは愛おしい。優位に立つため、自分を守るための虚栄すら、可愛く思える。刹那的な恋情なら許さないという、ある意味熱烈な好意の裏返しだとしたら、むしろ願ったり叶ったりだ。
「なぁ、俺のこと好き?」
「……。」
あくまで認めたくないらしい隆一が、不貞腐れたように光の肩へ顔を埋めた。
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朝霧とおる