光の飛沫を手に浴びて、こっそり舐め取ろうとしたところで光が止めに入る。
「そんなもん、舐めるなよ……」
「……。」
声に棘を感じて振り向くと、光が眉を顰めている。強張った声に怒りが漲っていて、光は悔しそうに唇を噛んでいた。
「……ショック。」
想定していたより深刻な事態に陥っているのは光の顔を見れば一目瞭然だ。悪ふざけの延長だとは思ってくれなかったらしい。根が真面目だから、軽く流せないんだろう。自分は光の気持ちを読み誤ってしまった。
「気持ち悪かった?」
嫌われる覚悟をしたら、昂りは急激に冷めていく。しかしどうせ疎まれるなら突き詰めてやろうと、光の手を振り払って腕を垂れていく白濁を口へ運ぶ。それを見た光は、信じられないとばかりに目を見開く。顔を赤くして俯いた光は、感情を押し殺すように喉から声を絞り出した。
「……逆。」
「え?」
「おまえは遊びのつもりなのかもしんないけど。俺は……」
急に身構えたのは、光の言葉を聞きたくなかったからだ。いつか関係が壊れてしまうことに怯えながら、恋心を擦り減らしたいわけじゃない。今、心を通わせても、きっといずれ終わりがくる。
「好きなやつにこんな事されたら、我慢できるわけない。」
「……。」
「誰にでも、こんな事するのかよ。」
嫉妬してくれる光に苦笑いを返すのが精一杯だった。ここまではっきり好きだと言われたら、誤魔化すことはできない。それでも抵抗を試みる。
「何言ってんの。真に受けないでよ。こんなの自分でするのと同じだろ。」
「隆一……本気で言ってんの?」
大きな手が隆一の両肩を掴んで、痛みをおぼえるほどに強く指の先が食い込んでくる。迫ってきたと気付いた時には、唇を奪われていた。
「ッ……!!」
ただ唇を押し当ててくるだけの拙いキスだったけれど、歓喜した心に嘘がつけなくて、隆一は咄嗟に光のシャツを掴む。瞼を閉じて睫毛を震わせる光は必死さでいっぱいだった。
素直に好きだと言えない後ろめたさが苦しくて、掴んだシャツを離す。すると光の手が追い掛けてきて、隆一の両手首を強い力で捕える。
「責任取れよ……」
瞳の奥は不安で揺れているくせに、光は果敢に睨んでくる。こういう時も真正面から立ち向かって逃げることを知らない光が怖い。けれどそんな彼の真っすぐさに胸が震えて喜んでいる自分もいる。
「……責任って?」
「俺のこと、好きになれよ。」
もうとっくに好きだよ、と心の中だけで言葉を返す。しかしどこまでも意地悪く、隆一は目を逸らして苦笑いで応えた。
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朝霧とおる