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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

新緑の楽園「三人の少し前」1

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新緑の楽園「三人の少し前」1

視界の隅にいつもその姿はあるのに近付けない。光(ひかる)にとって隆一(りゅういち)とはそんな存在だった。

涼やかな横顔からは彼の本心を窺い知ることはできず、自分が子どもだという事実を突き付けられるようだ。

彼の手元では大抵難しそうな本が開かれていて、眼鏡の奥で静かに文字を追っている。落ち着いた雰囲気をまとう隆一に声をかけるクラスメイトはあまりいない。しかし疎まれているわけでもなく文武両道で何でもそつなくこなすものだから、彼が周りに目を配っている時は自然と人が集まる不思議な奴なのだ。

声一つ掛けるのも緊張するなんて、人見知りをしない自分には珍しい。同じクラスメイトとして二年という歳月を迎えようというのに、光は隆一のことを何一つ知らなかった。

初めての接点は生徒会の役員決めだ。自他ともに目立つところは認めていて、光はクラスメイトから順当に推薦を受けた。しかし二人候補者を出さねばならないというのに後一人がなかなか決まらなかったのだ。

「竜崎、組んでやるなら誰がいい?」

生徒任せの候補者選びが難航しているところ、担任から声が上がる。そして光は思い切って隆一を指名した。クラスメイトの安堵した空気から考えると、恐らく皆思っていたことは同じだったのだ。しかし隆一には強要しがたい何かがある。光もそれだけが気掛かりだったが、こちらの心配をよそに当の本人は実に涼しい顔をしていた。

「別に構わないよ。」

凛とした声に息を呑む。承諾の仕方さえ澱みなく美しい。そんな言葉がパッと頭に浮かぶくらいには、他のクラスメイトとは一線を画す。

内心ホッとしたのは言うまでもない。仲が良かったかと幾人かに疑問を投げかけられたが、気になって仕方ない胸の内がバレたくなくて、光は笑って誤魔化した。生徒会の運営をするにあたって頼りになりそうなのは誰もが認めるところだったので、それ以上追及されることもなかった。

第一声は謝罪から始まった。けれど隆一は不思議そうに光を見返して首を傾げただけだったように記憶している。

「悪りぃ、柳。」

「……。」

「あ、いや……面倒だろ、生徒会なんて。巻き込んで、ゴメン。」

「あぁ、そういうこと。竜崎だって似たようなものだろ。気にしてないよ。」

「そ、そうか?」

顔を顰めるでもなく、鬱陶しがるでもなく、口角を少しだけ上げた微笑みに胸を撃ち抜かれた。文字通り隆一の前で身体を硬直させ、暫し呆然と魅入られて、隆一に再び首を傾げさせてしまった。

「集合まで、まだ時間あるよね?」

「あ、あぁ。」

「俺、図書室寄った後行くから。先、行ってて。」

誘おうと口を開きかけて、その前にやんわりとフラれてしまった苦い思い出。訳も分からずガッカリしたことを今でも覚えている。

無駄のない所作で席を立ち、隆一が教室を出ていくのを目で追う。胸の高鳴りに何かが始まる予感をおぼえつつ、臆病風の吹いた心は隆一を追い掛けて付き纏うほどの勇気を光に与えてはくれなかった。









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