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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

あまのがわ喫茶室8

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あまのがわ喫茶室8

掃除を終えて、ソファで一息つくと、いつも以上に言葉少なく小さく丸まっているので、つい手を伸ばしたくなる。幼い頃のように、抱き締めて大丈夫だよと慰めてやるのは、もうこの歳の自分たちがしていいことだとは到底思えなかった。恋人なら許されても、ただの幼馴染ではアウトだろうというのが、涼介の出した結論だ。

寂しげな背中を軽く叩いて立たせ、約束をしている天野のもとへ向かうことにする。今日も彼はいつも通りあまのがわ喫茶室を開け、ポットの中を踊る茶葉を飽きることなく眺めていることだろう。

平日は駅前の雑居ビルに勤める人たち向けにカレーとサンドウィッチを提供しているが、土日は自慢の紅茶と手製のベイクドチーズケーキしか出していない。彼一人で十分まわせる客数なので、涼介は有難く休みを貰っているのだ。学生にとっても土日休みは有難い。やりたいことがあれば、とことん打ち込むだけの時間も確保できる。

土曜の午後、ティータイムを過ぎれば、店内は落ち着きを取り戻す。引っ越し業者が予定通りに来るとは限らなかったので、時間の約束まではせずにいた。しかし今の時刻であれば、天野は手が空くだろうと考え、少々上の空になっている幼馴染とゆっくり歩いて店を訪ねた。

「こんにちは、天野さん。」

カランコロンと扉に付いている鐘が心地良い音を立てる。店内へ結弦を招き入れると、物珍しそうにキョロキョロと忙しなく瞳を動かす。そのさまをジッと見つめていると、視線を感じたらしく涼介を見上げてくる。結弦に微笑んでカウンターの方を見るように目配せすると、ようやく結弦は視界に天野を捉えたようだった。

「こんにちは、白鳥くん。」

「こんにちは。よろしくお願いします。」

落ち着いた様子で挨拶をした結弦にひとまずホッとする。結弦は何かに気を取られていると、そちらばかりに意識を向けて、なかなかこちらに引き戻せないことがあるからだ。集中力があると言えば聞こえはいいが、結弦の場合、それでは済まないほど、人間関係に支障をきたしてきた。しかし厄介なことに自覚がない。本人は動じないが、周りは振り回されるというのがいつものオチだった。

しかし今日に限っては面接に来たという体裁を理解しているらしい。涼介の心配をよそに、思いのほか天野に興味を持ったようだった。


 * * *


口数が少ない結弦が嬉々として口を開いたのは、結弦の好奇心をくすぐる話の引き出しを天野がたくさん持っていたからだろう。

結弦は生き物の観察が大好きだ。天野は天体観察に精を出している人なので、そこで彼らは観察者同士、意気投合してしまったというわけだった。涼介は置いてきぼりを食らい、楽しそうに盛り上がる彼らの話に相槌を打つより他なかった。

涼介以外の人間と生き生きと話す姿を見るのは、もしかして初めてかもしれない。特別なポジションを奪われてしまったような喪失感。しかしさすがにこれほどの年長者に嫉妬心までは抱かない。恋のライバルには成りようがないので、穏やかな気持ちで目を輝かせる結弦を飽きることなく見つめる。

結弦への観察眼なら誰にも負けないと思う。彼の実の父親にすら負ける気がしない。それほどまで結弦のことをそばで見てきたし、彼の感情の機微には敏いつもりだ。

「さて、夕飯にしようか。白鳥くんは好き嫌いある?」

「ありません。」

「それは偉いね。」

結弦は正直言って幼く見える。とてもこの春から大学生だという年頃には見えない。天野が言うから嫌味にならないが、他の者が言えば的を得た揶揄いになってしまうだろう。しかし結弦本人は全く気にする素振りもなく、嬉しそうに天野の言葉に頷いていた。

出てきたオムライスに結弦が目を見開いたのは一瞬だったけれど、彼が胸を高鳴らせているのは明らかだった。結弦は子どもが好んで食べるような物が大好きだ。そして変に凝ったものよりシンプルな味を好む。

天野に夕飯のリクエストを出していたのは涼介だった。喜ぶ顔が見たいから、滅多にしないお願いを天野にした。

血の繋がらない三人で食卓を囲む光景は不思議なものだが、全く違和感などなく、なるべくしてなったと思えるほど。涼介は結弦があっという間にこの空間へ馴染んでくれたことが嬉しくて仕方がない。

結弦が自分へと向けるまなざしが幼馴染以上のものにならなくてもいい。この温かい時間を共有できるだけで十分満足だと思える。

「結弦、今度、二人で星を見に行こうか。」

「うん。」

天野の天体観測にいたく興味を持ったらしい結弦は、オムライスを頬張りながら何度も頷いてくる。その姿を見て幼い頃の結弦を思い出す。まだあまり物を知らず、涼介が披露する知識を真剣に聞き入っていた頃の彼だ。いつの間にか結弦は自分より博識になってしまったけれど、あの頃持っていた好奇心をまだ彼が維持し続けていることに心底驚いてしまう。まだ見ぬ世界を知りたいという純粋な欲求で結弦は今も生きていると感じるのだ。それだけに涼介とは相容れない純真の塊に思える。

自分が抱く邪な思いは絶対に悟られたくない。そう思うと少し悲しい想いも去来するけれど、涼介は愛おしい気持ちを隠しもせず、結弦の一挙一動を目で追い掛け続けた。










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