涼介が他の誰かに触られるのは、とてもイヤ。湧き上がってきた感情は禍々しくて、涼介に嫌われてしまわないかと心配になった。だからその感情を嬉しいと言った涼介を意外に思いつつ、安堵したのは言うまでもない。
今夜の涼介は機嫌が良かった。結弦にとって、それは何よりも大事で、彼が嬉しそうだと自分も引きずられるように上機嫌になる。
「結弦、空気の澄んでるところへ行けば、もっと綺麗に星が見えるかもよ。」
「行きたい。」
「どこか行ってみる?」
「うん。」
「じゃあ、天野さんにオススメの場所を聞いてみようか。」
「うん。」
伸びてきた涼介の手が結弦の手を引いて、彼の口元まで辿り着く。ジッとその様子を眺めていると、涼介が微笑んで彼の唇が結弦の手の甲に落ちた。
「ねぇ、結弦。」
「うん?」
「色んな事がよぎっちゃうんだけど・・・でも軽い気持ちなんかじゃなくて・・・」
話し始めたけれど、その事にまだ躊躇いがあるような困った顔。涼介が何故そんな顔をするのかわからなかったけれど、あまり知らない顔だった。
そっと頬に触れてきた涼介の大きな手が気持ちいい。もっと触れて欲しくて、望むままに身体を寄せて近付いた。
「結弦・・・触ってもいい?」
「もう、触ってるよ?」
疑問に思ったまま口にしたのだが、涼介が苦笑いをして悩ましい顔をする。
伸びてきた涼介の手にそのまま抱き締められて、すっぽりと腕の中へ収まると涼介の忙しない心臓の音が耳に直接響いてきた。不思議に思って見上げると、涼介の唇に結弦の唇が塞がれる。
「ッ・・・ん・・・」
長いキスって難しいと思う。息継ぎするのが大変だ。体温は上がり心臓がキュッと締め付けられて苦しくなる。その一方でとても安心する。ここにいても良いんだと、言葉でなく唇の柔らかさと温かさで、結弦に納得させてくれる。
「ッ!」
急に視界が変わって、次の瞬間、天井が見える。
覆い被さってきた涼介が結弦の首もとをしきりに唇で弄るので、くすぐったくて身を捩る。
「結弦、いい?」
また前と同じように触れられるのかと思うと羞恥心がないわけではなかったが、涼介に触れられるのは気持ちがいいことだと知っている。
「うー・・・。」
「涼介?」
額を結弦の胸につけて唸り始めた涼介の髪を触る。いつも綺麗にセットする彼の髪はどこかしこも整っていて、結弦のように時折はねていることはない。癖毛で柔らかく、少し透けて薄い髪色は、結弦のお気に入りだった。小さい頃は気になってよく手を伸ばした。最近ちっともそんな機会はなかったから、具合の良い触り心地に息をつく。
「色々考えると、軽率かなって思っちゃって・・・。」
「軽率?」
先ほどからブツブツと呟く涼介の言葉の意味がわからなくて戸惑う。
「本当に軽い気持ちじゃないんだけど・・・。でも、結弦は・・・したい、って思ってくれる?」
何か大事な言葉を聞き逃してしまったのだろうか。話の方向性を全く読むことができずに首を傾げる。すると結弦の様子を見て苦笑いした涼介は、暫く目を泳がせて、ひとしきり悩んだ後、ポツリと告げてくる。
「結弦・・・抱きたい。」
「エッチなこと?」
「う、うん・・・セックス、したい・・・。」
ようやく涼介が思い悩んでいる事柄に合点がいって、疑問もなくなりスッキリする。
「する?」
「・・・いいの?」
「うん。」
しどろもどろと要領を得ない涼介は珍しい。それがとても新鮮で、少し赤く染まった彼の頬に手を伸ばすと、ビクッと肩を震わせた。
「涼介、緊張してるの?」
「だって・・・初めて、だし・・・。」
涼介が珍しい顔をいっぱいする。そんな彼をもっと見てみたいという欲求は自然と湧いてきて、服を引っ張って涼介を引き寄せる。すると耐えていたものがいっきに堰を切ったように、噛みつくようなキスが降ってきた。
柔らかくて、温かくて、気持ちがいい。外気が上がっていく季節に身体の熱まで上がっていくので、二人の身体に汗が滲むまでそう時間はかからなかった。
自分が求める人がそばにいて、その人に必要とされることは、こんなにも胸がいっぱいになる。求めているのに必要とされない悲しさを知っているから、涼介の好意と自分の好意が交わることに、この上ない幸せを感じる。
涼介も怖かったのかな。そう考えれば、この春から夏にかけて、涼介が難しい顔をたくさんしていた訳を納得できるのだ。拒絶や裏切りを恐れる気持ちが、人と深く付き合うことに躊躇いをもたらすと自分は知っている。
涼介が離れていくことに寂しさや恐れを抱いたように、彼も結弦に対して同じように思っていたのだとしたら、それを二人で乗り越えて熱を分け合うことにちゃんと意味がある気がする。
「結弦、好きだよ。」
大事に扱われることに慣れ過ぎて、一緒にいられることが当たり前だと思っていた今までの自分を叱らなくては。想い合う熱量が同じだから、傷付け合わずそばにいられる。大切な人を自分の至らなさで失わなくて良かった。
「好き。涼介が好き。」
ちゃんと伝わってほしいと、涼介の目を見つめて訴える。
すると涼介は少し照れたように笑って、抱き締めてくれた。
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朝霧とおる